「積み重ねてきた十四年が、突然全部なくなった。僕に関する、キオクがない!」というところから始まる再生の物語。人生をリセットすることなんて出来ないけど、過去の自分を失った彼はもう一度初めからやり直しをする。最低だった、みたいな(記憶がない、からね)それまでの自分を取り戻せないから、そこからスタートして初めての自分を作っていく。
中学2年の10月14日に彼は退院する。自転車事故は自殺行為だったみたいで、何故死にたいと思ったのかは不明。家族、友人、知り合い、先生たち。腫れものに触れるように恐々接してくれる彼らと向き合い続ける日々。彼は過去の自分を受け入れつつも新しい自分で周りと関係を築いていく。
まだ小学2年の弟がいる。隣に住む同級生の女の子も。そして不登校になつている以前の親友だって。そんな彼らとの関係の中から自分を見つける。記憶は戻らないけど、今を大事にして、今を生きる。
途中に認知症の老婆が登場する。認知症と記憶喪失は違うけど、都合のいい生き方はダメだと思う。酷いことをした過去を忘れて,子どものように無邪気に振る舞う老婆を邪険に扱いながら、しっかり面倒を見ている娘(60代くらいの)の姿を見ながら,彼は自分のことを考える。「傲慢で高慢で尊大な俺様」だったらしい、知らない自分。
リセットはない。いつか記憶が戻ってきて元の酷い自分に戻るかもしれない。だけど、今は「今の自分」が好きだ。だからもう変わらない。このまま生きる。たとえ過去を思い出したとしても。そんな決意を抱いてお話は終わる。
これもYA小説に分類されているけど、児童文学でも大丈夫。小学校高学年くらいから現役中学生にぜひ読ませてあげたい、そんな作品。