後半少し弱いのではないか。しかもあれもこれもと、1本の小説に盛り過ぎ。消化不良を起こしている。そのくせ、このお話がどこにたどり着くのか、興味津々だったのに、どこにもたどり着かないまま、終わる。彼が何を見たのか。どこに向かうのか。せめて、そこだけでも、もっと明確にして欲しい。
彼の罪とは何なのか。運命に導かれてここまで、きた。しかし、それは本来の自分の人生ではない。不本意なまま流されるようにしてここまできた。だから、ここで一度リセットしたい。だが、踏ん切りがつかないまま、誰かに責任転嫁する。自分だけが被害者のような顔して、諦める。これだってあなたが選んだ人生だったのではないのか。誰のせいでもないはずだ。何を甘えたことを言うのか、と、どやしつけてやりたい。しかし、そんな彼の憂鬱に僕たちは付き合う。なぜなら、僕たちも彼と同じように自分に甘いからだ。若い人なら、こんな人生に疲れてしまった中年男のお話なんか、読みたくもないだろう。だが、同世代の人間にすると、どこかで共鳴してしまうところがある。情けない話だけど。それだけに、こういう終わり方には納得がいかないのも、事実だ。
50代になった建材会社の社長が、もう今ある人生から降りたいと思う。今まで必死に生きてきて、心にぽっかりと穴が開いてしまった。結果的にとても満たされた境遇にある。でも、それを成功とは思わない。今の地位を望んだわけではない。成り行きからこういうことになった。誰もが心寂しい。その寂しさを善意が覆い尽くす。善意からの行為を人は拒絶できない。それを愛情だと、思うわけではない。打算でもない。
妹の事故を通して、人生が変わる。身寄りのない兄妹を、事故の加害者が助ける。だが、それが彼らを縛りつけることになる。加害者である社長が死んだあと、その後を継いだ彼の妻が、結果的に兄を縛りつける。その兄がこの小説の主人公だ。建材会社の社長の後を継いで、若くして社長に就任する。それから10年。掘り起こされる彼の過去の話と同時に、今のドラマが同時進行していく。
彼が助けることになる30代の女性とその祖母。彼女たちへの善意は裏表のない純粋な行為だ。しかし、打算もなく、あまりよく知らない他人を助ける人間は胡散臭い。彼は女性に対して一切性的な興味を持てない。だが、同性愛者というわけではない。彼がなぜ、そういう性癖になったのかが描かれることにはなる。しかし、あれではなんか説明的すぎて、納得できない。しかも、後半の展開はあまりにも都合よく話が進み、鼻につく。
過去を総決算するための行為は、彼が受けた善意と同じことになる。これでは繰り返しだ。しかも、今度は自分が善意の加害者になる。そこをどうするのか。それこそがこの作品の描くべきところだったのではないか。なのに、そこは置き去りにしたまま、終わる。自分だけが被害者なわけがない。