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映画・演劇のレビュー

飛鳥井千砂『タイニー・タイニー・ハッピー』

2019-11-28 20:13:44 | その他

 

久しぶりでこの小説を読んだ。ふだんは新刊ばかりを読んでいるけど、たまに少し古い本も読んで見たい。前向きになれないときは,特に。「小さな、小さな、幸せ」と題されたこの短編連作を読んでいると、なんだか、自分までそんな気分にさせられる。これは心のオアシスのような作品なのだ。しばらくここでまどろんでいたい。

 

東京郊外の大きなショッピングセンター、タイニー・タイニー・ハッピー(通称タニハピ)が舞台となる。そこで働く数人の男女にスポットが当てられる。どこにでもいるような20代の男女である。彼らの恋愛がお話のテーマだ。というか、テーマというのは大袈裟で、彼らの日常のスケッチが描かれている。結婚している夫婦や同棲している男女、まだ付き合ってないひとりたちもいる。それぞれのお話はほんとうにささやかなもので、それがどうした、と突っ込まれそうなくらいさりげない。でも、そんな彼らの悩みや、傷みと寄り添っていると、なんだか生きていることが愛おしいという気分にすら、させられるのだから不思議だ。心が落ち着く。ここにいていいんだ、と思える。

 

8つの短編の8人の男女。それぞれのお話はなんだかひとつのお話のような気がする。みんな同じように仕事に、恋に、人間関係に悩み、苦しみ、でも、小さな幸せに助けられて生きている。大きなドラマはない。でも、毎日の小さなドラマならたくさんある。それがこんなにも愛おしい。


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