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映画・演劇のレビュー

追加HPF 清風南海『いつか譚』、大谷『新羅生門』

2015-08-04 20:02:29 | 演劇

あと2本、HPF作品を見ることが叶った。これで今年は6本となった。例年並くらいの作品を見ることができてよかったと思う。いくらなんでも4本というのは寂しすぎる。昔はずっとほぼ全作品を見ていたのにシステムが変わって、講評委員は見れるだけでよい(以前は3人ですべて見なければならない、だった)という形になってから、あまり無理して見なくなった。(同時間複数会場上演になったし)その結果、せっかくの、たくさんの刺激を受ける貴重な機会をみすみす失ってしまったのだ。

だから、忙しくても、時間をやりくりして1本でもたくさん見よう。高校生たちの本気をしっかり受け止めよう。そう思って、最後の2本を見るため、時間をなんとか絞り出して、応典院に向かう。

期待は叶う。とてもおもしろい2本の芝居と出会えた。無理してよかった、と思う。

清風南海高校『いつか譚』は、とても高校生らしい作品。等身大の無理のない作りなのに、実は細部までよく考えられてある。作品は(台本は卒業生の中辻英恵さん)ちゃんと練られてあり、うまい。50分という上演時間も過不足ない。「いつか」という少女との出会いと別れを描く。彼女は毎日目が覚めると顔が変わっている。だから顔を通しての自分という存在を認識できない。そんなバカな話はない。だが、そんな異常な事態を大前提にしてお話は展開する。ちょっとしたホラーだ。

荒唐無稽なこの設定を事実として取り込むことで、この不思議なドラマは成り立つ。もちろん突っ込みどころは満載なのだが、そんなこと気にも留めない。実に大胆で、でも、繊細なドラマなのだ。このとんでもない設定を思いつき、それで1本の作品を紡ぎあげた。

ネタばれしてからのラストシークエンスが少しモタモタするから、後10分短くしたならもっとすっきりした作品になったはずだ。その点は少し惜しい。しかし、エンディングも含めて、とてもよく話が練られてあるから、まぁ、気にしない。

このお話の教訓は、毎日を大切にすること、というありきたりな答えにも通じる。そんな単純なことが、このお話を通してとてもキラキラしたものになる。このアイデアゆえ、そんなことが、とても説得力のあるものとなるからだ。

今年のHPFのトリは大谷高校『新羅生門』だ。オリジナルを得意とする彼女たちが既成戯曲に取り組み、アレンジして、自家薬籠中にする。90分というコンパクトな上演時間もいい。アドリブもちゃんと盛り込み、無理なく自分たちの世界のものとして、成立させた。相変わらず憎らしいほど上手い。手慣れたタッチでこの大作をコンパクトに見せる。

横内謙介の作品ってこんなだったっけ、と思うくらいに、大胆にアレンジしてある。軽すぎるのもいい。見せ方次第では、えてして重くなりがちなのに、そうはしない。鬼とは何なのか、深く追求しない。誰の中にもある「鬼」と向き合い、相対峙する正義という曖昧なものすら取り込んで、単純な勧善懲悪のその先に至る。なんていう、難しいお話にはしない。エンタメ風に仕立てる。でも、その軽さはテーマを損なわない。実にしたたかで憎らしいくらいに上手いのだ。やられた、と思った。実に心地の良い作品に仕上がった。

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