昨年の台北映画祭で評判になった作品の中で、これが一番素晴らしい出来ではないか。グランプリを取った『海角7号』にはちょっとがっかりさせられたが、これは期待を遥かに上回る出来だ。大阪でもこの週末から公開される。
台北北部の街、新竹市を舞台にした青春映画である。そこは監督であるトム・リンが生まれ、青春時代を過ごした街だ。明らかに自伝的な映画で、見る前には、もしかしたら感傷的なノスタルジアか、と思ったが、全然そうではなかった。淡々と描かれる今から10年ほど前(1996年)のお話が、監督の懐古趣味ではなく、誰の中にもある青春期の、そしてある時代の終わりを象徴する。だから、胸に痛い。
なによりもまず風景が美しい。彼らが通う高校の広々としたキャンパス。そこでのなんでもない出来事のひとつひとつがすばらしい。こんなふうにして誰もが生きてきた。そんなふうに思わせる。主人公は7人の高校生である。いつも一緒でつるんでいる。学年は3学年にまたがる。彼らは幼なじみで、きっと少年野球の仲間かなんかなのだろう。そんな7人と、2人の少女が主人公だ。これは一種の群像劇である。
台湾で起きた野球賭博事件を背景にしている。その事件が彼らの夢の時間の終わりを告げる。野球を通して出会った子どもたちが、野球への夢を断ち切られる。映画の中の彼らは7人とも今ではもう野球をしていない。映画の中で野球への未練が語られることもない。だいたい彼らが少年野球で出会っただなんて、一切語られない。僕がここに勝手に書いてるだけだ。真偽のほどは明らかではない。だが、複数の学年の7人がここまで仲良くつるむにはそれなりの理由があるはずだ。野球の絆。それしかあるまい。
前半のバカばかりしているいくつものエピソード(相米慎二『台風クラブ』を想起させる学校の夜のプールに忍び込んで戯れるシーンが特にいい)から始まり、後半はだんだん彼らがばらばらになっていく姿が描かれる。
心が徐々に離れていく様が痛ましい。単車での事故。その後遺症で意識不明となる。車の窃盗。仲間をかばって退学になるまでの成り行き。そんな中で、あっという間に彼らの時間は終わりを告げていく。
校舎の屋上でいつも煙草を吸ってだらだらしている。そんな7人と、彼らを見守る2人の少女。それがこの映画の原風景だ。そこから始まり、そこで終わる。少女のひとりが彼らの聖域である屋上に上るシーンまで、だ。この普遍的な青春時代のお話がこんなにも痛ましいのは、それがもう失われて帰らないからだろう。なんでもない映画なのかも知れない。だがこの「ありきたり」がこんなにも胸の奥にまで深く沁みてくるのだ。傑作である。
台北北部の街、新竹市を舞台にした青春映画である。そこは監督であるトム・リンが生まれ、青春時代を過ごした街だ。明らかに自伝的な映画で、見る前には、もしかしたら感傷的なノスタルジアか、と思ったが、全然そうではなかった。淡々と描かれる今から10年ほど前(1996年)のお話が、監督の懐古趣味ではなく、誰の中にもある青春期の、そしてある時代の終わりを象徴する。だから、胸に痛い。
なによりもまず風景が美しい。彼らが通う高校の広々としたキャンパス。そこでのなんでもない出来事のひとつひとつがすばらしい。こんなふうにして誰もが生きてきた。そんなふうに思わせる。主人公は7人の高校生である。いつも一緒でつるんでいる。学年は3学年にまたがる。彼らは幼なじみで、きっと少年野球の仲間かなんかなのだろう。そんな7人と、2人の少女が主人公だ。これは一種の群像劇である。
台湾で起きた野球賭博事件を背景にしている。その事件が彼らの夢の時間の終わりを告げる。野球を通して出会った子どもたちが、野球への夢を断ち切られる。映画の中の彼らは7人とも今ではもう野球をしていない。映画の中で野球への未練が語られることもない。だいたい彼らが少年野球で出会っただなんて、一切語られない。僕がここに勝手に書いてるだけだ。真偽のほどは明らかではない。だが、複数の学年の7人がここまで仲良くつるむにはそれなりの理由があるはずだ。野球の絆。それしかあるまい。
前半のバカばかりしているいくつものエピソード(相米慎二『台風クラブ』を想起させる学校の夜のプールに忍び込んで戯れるシーンが特にいい)から始まり、後半はだんだん彼らがばらばらになっていく姿が描かれる。
心が徐々に離れていく様が痛ましい。単車での事故。その後遺症で意識不明となる。車の窃盗。仲間をかばって退学になるまでの成り行き。そんな中で、あっという間に彼らの時間は終わりを告げていく。
校舎の屋上でいつも煙草を吸ってだらだらしている。そんな7人と、彼らを見守る2人の少女。それがこの映画の原風景だ。そこから始まり、そこで終わる。少女のひとりが彼らの聖域である屋上に上るシーンまで、だ。この普遍的な青春時代のお話がこんなにも痛ましいのは、それがもう失われて帰らないからだろう。なんでもない映画なのかも知れない。だがこの「ありきたり」がこんなにも胸の奥にまで深く沁みてくるのだ。傑作である。