習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『カメリア』

2012-08-04 07:13:27 | 映画
 大好きなプサンを舞台にした3話からなる、オムニバス映画だ。劇場公開時から見たいと、思っていたが例によって、すぐに公開が終了し、DVDを待つことになる。ようやく、である。

 各エピソードには、何ら関連性はないが、愛をテーマにして、プサンの魅力を描きこむことが条件。後は自由にしてもよい。各エピソードの上映時間はけっこう長くて40分から50分の間くらいか。全体で2時間20分以上という長さは、この手の映画としてはちょっと厳しい。ここまでごった煮の映画になるなんて、思いもしなかった。もう少ししっとりとした作品に仕上がればよかった。行定勲作品のテイストで全体ができていれば好きな映画になったかもしれない。

 もともと行定勲監督の作品(『かもめ』)だけが見たかったのだが、他の作品があまりにドタバタすぎて、全体の印象はよくない。どうしてこんなにも、統一感のないものを作るのか。監督たちの自由を最優先したのだろうが、これはあんまりだ。

 荒唐無稽のコメディー映画『アイアン・プッシー』には驚く。タイのウイシット・サーサネティアンは極彩色が大好きで、これも彼らしい映画ではあるのだが、バカバカしさが中途半端で、あそこまでするのなら、もっと突き抜けて欲しかった。オカマのタイ人の料理人のスパイ(なんですか、それは!)が、殺しを依頼された相手を好きになる時空を越えた作品。なんだかよくわからないけど、めちゃくちゃな話で、唖然とする。韓国のチャン・シュナンの『ラブ・フォー・セール』も荒唐無稽だが、こちらは、一応整合性のあるストーリー。ただ、2本とも企画意図であるプサンの魅力をまるで描く気がないように思える。

 その点、行定勲は、ロケーションを生かして、しっとりとしたラブストーリーに仕立ててある。ソル・ギョングの演じる撮影監督が、ロケの合間の夜の町で、ひとりの少女(吉高由里子)と出会う。冬のプサン、裸足の物言わぬ少女。彼女と過ごす一夜の物語。ストーリーは単純。話の先も簡単に読める。だが、雰囲気がよく出ていて、心地よい。きっとそういう映画が作りたかったのだろう。そういう意味では目的は達せられてある。とはいえ、それだけである。それ以上のものはここにはない。自殺した少女の幻と過ごす夜の町のロケーションと雰囲気だけで、1本の中篇を仕立てた、って感じだ。物足りない。オムニバスの1本だから、これ以上は望めないが、せめて全体で何かが伝わるようになっていたら、この作品も浮かばれるのに。

 プサンという懐かしい町の香りが、全編に漂う映画が見たかった。日本から、こんなのも近いのに、そこは異国で、でも、そこはまるで日本よりも身近な町に思える不思議。この町を歩くには楽しい。その気分をこの映画に期待したには僕のわがままだろうが、なんか残念でならない。かくなる上は、自分で行くしかない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 沖方丁『天地明察』 | トップ | コトリ会議『もうひとつは君... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。