ロン・ハワードがこういう素材に挑んだ、というのに、興味を持った。まぁ、彼は何でもやる。あらゆるジャンルに挑戦して、きちんと勝利を収めるから、今回も彼の監督作品というだけで、見る価値があると思う。
だが、今回は少しがっかりさせられる。これだけの大作映画なのに、なんだか、既視感ばかりが募り、なんか驚きがない。この手のヒューマン映画なら今までもたくさん素晴らしい作品があった。今、あえて彼がこの作品に挑んだ意味が見えてこない。そこがつらい。
メルヴィルの名作『白鯨』の映画化ではなく、その誕生秘話と、隠された真実を描く、なんてことにはあまり興味ない。しかも、最後は『野火』状態になるし。伝説の白鯨との戦いが壮大なスケールで描かれる3Dスペクタクル巨編というわけではないのだ。これはサバイバル映画で、人間ドラマ。3Dによる見世物映画ではない。なのに、売りはスペクタクルになるという齟齬。それが映画を中途半端なものにする。もちろん、ロン・ハワードのなかでは、ブレなんかないはずだ。主人公である2人の男(若く経験の浅い船長と、反対に経験豊富な一等航海士。彼らの確執がお話のメインとなる)、と彼らと運命を共にする捕鯨船のメンバーたちのドラマ。鯨を追って長い旅に出る。彼らを待ち受ける苦難。お決まりの展開を見せる。やがて、鯨の大群と出会うが、あの白鯨によって、船は大破して、漂流する。命を賭けたサバイバルとなる。
お話の外枠として、この事件の最後の生き残りの男のところにメルヴィルが行き、彼から話を聞き出す、という設定が用意されてあるけど、それがあまりうまく機能しない。よくあるパターンでしかない。最初から最後まで、昔どこかで見たような映画という印象に終始する。どうしてこんな古典的な映画にしたのだろうか。もちろん、史実を忠実に見せ、真実にたどりつくため、と言われたなら、文句はないけど、あまり、興奮もしないし、驚きもないからには、今、これを作る意味を感じない。鯨の乱獲はいけません、なんて話ではまさかあるまいが、そんなふうにすら思わせる終わらせ方もなんだかなぁ、である。