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映画・演劇のレビュー

たなぼ た 『ちゃんぽん meets Cafe au lait』

2013-01-13 19:03:02 | 演劇
 たなぼたの第13回公演だ。 なんと4年振りの活動再開らしい。そんなにも、間が空いていたなんて、気付かなかった。ウイングで上演されていた時はよく見ていたけど、最近ご無沙汰していたから、僕にとっては4年どころか、本当に実に久しぶりだった。なんだか新鮮で気持ちのいい芝居だ。 作・演出はいつものように中川千寿さんである。 たわいのないコメディーだが、ちゃんとそのたわいのない話を作ってあるから、それはそれで悪くないと思うのだ。難しいことは何も言わない。だが、見ている観客を嘗めたような作り方はしない。そんなこと、当然のことではないか、とは言わないように。これは芝居なのだから、という言い訳のもと、まるで嘘くさい話を、コメディーだから、といいわけして見せるような芝居はこの世の中には多々あるのだから。そういう意味でこの芝居のきちんとした作りは好感が持てる。別にリアルを求めているのではない。楽しさのほうが、大事だ。だが、あり得ないような嘘話には、楽しさは感じられない。大事なことはバランス感覚なのである。その点この作品は上手くドライブが出来ていると思う。

 ルームシェアの話である。まるで知らなかったもの同士が一つ屋根のもとで同居する。そこに生じるドラマを見せていく。でも、へんな作り話は施さない。できるだけ自然体で彼らの日常を見せていく。とても単純なお話で、でも、そこそこにはドラマチックな展開もある。そのへんもバランス感覚だ。中川さんの匙加減にかかっている。

 3人の男女がひとつの家に同居する。大家さんであるこの家の持ち主、マダムイクコは50代の女性。40代でゲイの哲生と、普通のOL真佐江。そこに20代の大学院生が加わる。なんのつながりもない彼らが同居して、別々の自分らしい暮らしを過ごしながらも、顔を合わせると、それなりの会話はするけど、プライベートには立ち入らないという、そんな関係性が心地よい。快適な人間関係ってどんなものをいうのだろうか。この芝居の彼らの距離感はひとつの理想だろう。だが、現実には、そう上手くは行かないのではないか。もちろんそんなこと、中川さんもわかった上で、ぶつかりあわない人間関係をここに模索しているように思える。世代の違う4人は、疑似家族になることはなく、ただの隣人として付き合える。その距離感がこの作品のリアルを支える。深くは追求しないコメディースタイルというのも、この作品にとってはよかったはずだ。

 恋愛を話の軸にしながら、生々しさとは無縁の展開を見せるのも上手い。結婚しない40代、という軸になるふたり(哲生と真佐江)を中心にして、彼らが男女であるにも関わらず、ずっと友情に支えられて付き合い、しかも、同居している姿を通して、そこに新しいライフスタイルを提唱する。彼がゲイだから、ではなく、好きだけど、結婚もしないし、家族にはならないでずっと一緒にいられるか、という夢のような設定を見せる。

 終盤になって、彼女が今付き合っている年下の恋人のもうひとりの恋人(要するに彼は二股をかけているのですね)が、この家にやってきて大騒動になるというよくある展開でお話全体を締めるのだが、こういうコメディーの定番がなぜか心地よいのも、このお話がリアリズムではなく、パターンを踏まえたドラマだからだろう。シチュエーション・コメディーの枠内で、無理ぜず、今の自分の思うところを吐露していく。その余裕がこの作品の魅力だ。以前よりもずっと大人になり、全体をちゃんと見渡した作劇をするようになった中川さんが今後どんなお芝居を見せてくれるのか。なんだか楽しみだ。

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