習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

原田ひ香『図書館のお夜食』

2023-08-11 08:28:00 | その他

『三千円の使いかた』で最近大人気になった原田ひ香の新作。だからなかなか図書館では借りられない。ようやく順番が回ってきた。

「東北の書店に勤めるもののうまく行かず、書店の仕事を辞めようかと思っていた樋口乙葉は、SNSで知った、東京の郊外にある「夜の図書館」で働くことになる。そこは普通の図書館と異なり、開館時間が夕方7時(4時から勤務するが)~12時までで、そして亡くなった作家の蔵書が集められた、いわば本の博物館のような図書館だった。」東京都内とはいっても、そこはかなりの田舎にある。だから住み込みで働くことになる。

なんだかいつもの原田ひ香とはタッチが違って少し落ち着かないけど、いつも通りサクサク読めるから、不安を感じつつもどんどん読む。

なんとアラブの大富豪に求婚されたり、まさかの展開が待ち受けているし、お話自体がなんだか村上春樹の最新作『街とその不確かな壁』みたいで、同じように図書館の話だし、不思議な感触の静かなお話。

これは5話からなる作品だが、1話完結連作ではなく、長編。そこでは心を病んだ優しい人たちが働く。彼らの抱える秘密は乙葉の話の合間に唐突に順次描かれていく。事件は静かに起こり、静かに収まっていく。うやむやに近い形で終わる。最後の方は蔵書点検の為に休館する話だが、閉館するのではないかと不安にさせられる。幸せは永遠には続かないけど、気がつくとずっと同じように続いていることもある。

図書館で小説、料理。しかも簡単だけど美味しいもの。難しい本ではなく、高尚なお料理でもない夜食。夜の時間のコーヒー。

オーナーの秘密。彼女の旅。ここの世話人である篠井の秘密。スタッフの面々。仕事と生きがい。甘い話ではないけど、やはり優しい。なんだか、不安にさせられたのに、最後はほっとする。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ジェーンとシャルロット』 | トップ | 『658km、陽子の旅』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。