『赤い雪 Red Snow』の甲斐さやか監督第2作。ウィルスの蔓延により人口が激減した近未来のお話。映画化もされているカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』と同じ設定でクローン側ではなく臓器移植をクローンから受ける男(井浦新)が主人公。説明を最小限に留めて彼を中心として周囲のさまざまな人たちの心情やこの施設内の光景、そんな断片の数々を描く。回想で挟み込まれる状況や関係性がなかなか明確にはならないし、今いる彼らは何者なのかも最初はわからない。
そんなふうにして何が起きているのかをわざと明確にしないまま話を展開させていく。ズルいけどなかなかスリリング。94分という尺もいい。説明描写は一切ないけどシンプルな話だから充分推測はつく。クローンは「それ」と呼ばれこの施設内で育てられている。彼らは自分の置かれた立場を教えられていて反抗はしない。静かに受け入れられている。
手術を受ける前に男は「それ」と対面する。本来なら禁止されているが、彼は特別な存在だから許される。何度かの面談を通して彼に対しシンパシーを抱き、移植に疑問を持つ。男の中の葛藤はさらりと流して彼の死が描かれる。そのあまりにあっけない展開は見事だ。シンプルな映画は最後までその姿勢を貫く。