シンガポールのアンソニー・チェンの監督・脚本。彼は『イロイロ ぬくもりの記憶』の監督だ。これが第2作となる。原題は『燃冬』。(軽めの日本語タイトルより、こちらの方がいい)舞台となるのは中国と北朝鮮の国境にある町、延吉。中国のどこにでもあるような小都市。雪の中に埋もれるような町。もちろんここには朝鮮族がたくさん暮らす。ちょっとした都会でもあり観光地かもしれない。だけどなんだかうら寂しい。
上海から友人の結婚式に出席するためにここに来た男が主人公だ。そこで出会う旅行社のツアーガイドをする女。さらには彼女の知り合いである働く気力を失って何もする気になれない男。そんな3人の5日間。彼らはそれぞれ小さな夢を抱いていたが、それを失ったみたいだ。説明は一切ないから何があったのかは想像するしかない。ほんの少しだけ彼らの背景も描かれるけど、それだけ。
延吉で出会ったそんな3人の過ごした5日間が描かれる。挫折して死にたいと思うけど、死ねない。だから、もうちょっとだけここでいる。もちろんいつまでもここにいるわけにはいかないし、そんなことは望まない。だけど今ひと時ここで一緒に過ごしていたい。数日でいい。あと1日だけと思う。そんな5日間。
国境線はそこにある。誰もいないそこで(簡単な鉄条網があるだけ)あてもなくフラフラ歩く時間。長白山(白頭山)に行き遭難しそうになる時間。さらにはそこで雪の中、熊に遭遇する。またある日には夜の町中をさまよい歩く。ここにはお話らしいお話はない。ただなんとなく、知らない同士だったのに一緒に過ごす時間が描かれる。そして彼らは別れる。死にたいと思っていた気持ちが、ほんの少し鎮まる。ただそれだけのこと。これはそんな映画だ。誰もが抱える傷みを描く感傷的な小さな旅。