別役実の不条理劇を丁寧に描きながらも、その世界を、きちんと凶暴で不気味に見せていく演出のオダタクミの手腕に感服した。狭い空間を逆手にとり、生かしきる。そこでしか成り立たない密なドラマを組み立てる。抽象的なお話が、この空間故、迫りくる役者の肉感ゆえ、実にリアルに展開していくこととなるのだ。久々にそこに役者がいることが怖いな、と思った。彼らの圧倒的な迫力が芝居に有無を言わせぬリアルを与える。目の前何10センチのところで芝居がなされる。本来なら体温の低い芝居のはずが、彼らの熱い芝居のため、とてもエキサイティングなものとなる。抽象的な会話が、そうじゃないものとなる。もちろん、この台本自体の暴力性もそこには影響している。ライオン(あるいは、トラ、もしくはクマ)が檻を破って人を襲う。椅子には、昨夜殺された人に対して花を手向けてある。今日もまた、新たな犠牲者が出るという。彼が座ろうとしていた椅子に座った人が次の犠牲者になる、らしい。そんなバカな、と思う。でも、そう言われたら彼はその椅子に座れなくなる。そこに純白のウエディングドレスを着た女がやってきて、その椅子に座ろうとする。自ら進んで犠牲者になるつもりなのか。
藤田和広演じる旅人が、この常識の通用しない世界に迷い込み、彼らの話すとんでもない話に振り回され、やがて取り込まれていく姿を描く。観客である我々は彼目線で同時体験するという仕掛けだ。不条理なのに、とてもわかりやすい芝居である。それだけに、ストレートに衝撃が伝わる。
ラストで登場する杉本レイコが圧倒的だ。麻袋に閉じ込められた彼女が姿を現した時から、この芝居はさらに凶暴性を増す。ライオンである彼女の挑発的な言葉に6人は振り回される。やがて狂気は静かに閉じていく。
オダさんの中にある正常なものと狂ったものとの境目を描こうとする視線が藤田さん演じる若者によって代弁される。この台本の意図ともよくマッチしている。自らのオリジナル作品の時以上に、その辺のバランスはよく保たれている。まるでこの本が彼のために書かれたもののように自家薬籠中のものとしている。