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映画・演劇のレビュー

濱野京子『ヘヴンリー・プレイス』

2011-11-22 19:15:58 | その他
 この小さな小説を大事にしなくっちゃ、と思った。児童向けの作品だけど、大人の僕が読んでも泣けた。それはここには小学6年の少年が、本当の意味での大人になっていく瞬間がしっかりと捉えてあるからだ。大人の思惑に縛られて自分の意志を出せずに、そんな自分を肯定することで生きてきて、心の病になる。だけど、ラストで、初めて自分の責任において一歩を踏み出すこととなる。よくあるパターンかも知れないが、ここにはありきたりではない、どこにもなかった「彼一人のための」ドラマがある。

 夏休み。引っ越したばかり。偶然、雑木林で出会った幼い子供。(9歳らしいが)彼のために蝉を捕ってあげる。そこから始まる一夏の冒険。雑木林の中にある廃屋を舞台にして、4人の子供たちと、彼らがローシ(老師)と慕う青年の物語だ。(老師というけど、まだ、30代のホームレスだ。彼は、心に傷を負い、故郷を出て、仕事もないままここで暮らす。日雇いの仕事が入ったら働くし、空き缶を集めて小銭を稼いだりもする。しかし、それだけでは生計を立てられない。彼だけではない。みんながみんなそれぞれの悩みを抱えながら生きている。ひとりひとりのケースは違うから比較なんか出来ない。大体そんなことはナンセンスだ。

 主人公の和希はとてもおとなしいいい子だ。だけど、優しい両親の無言のプレッシャーによって心を病む。彼が出会った英太は父子家庭で父親から虐待を受けている。少しお姉さん(中一)の有加は、優秀な姉と比較されて、学校に行けなくなった。史生は施設を飛び出して、ローシとともにここに住んでいる。和希の視点を中心にして彼の問題を描くのだが、同時に彼らのドラマも見えてくる。

 ヘブンリー・プレイスは誰にも必要な場所だ。それがどこであってもかまわない。みんなそれぞれ傷みを抱えて生きている。強くはない。何かを心の支えにしなくては生きていけない。もちろん何かに頼ってばかりでは生きれないことなんかわかっている。和希にとってそこは一夏限定の場所だった。だけど、ここをみつけたことで彼は一歩を踏み出せた。ここで出来た仲間と共に生きていこうと思う。僕にとってこれは『木工少女』に続いて2冊目の濱野京子である。まだ、たくさんあるからこれから順次読んでいく予定。




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