中江有里の長編小説を読むのは初めてではないか。というか彼女の長編自体が初めての気がする。そうじゃなかったけど、ここまで本格的な大作はやはり初めてだったはず。どうしても女優としての印象が強いから、作家中江有里は片手間仕事っていう偏見をどこかで抱いていた気がする。これはそんな自分を深く反省させられる傑作である。
複数の登場人物の視点から家族、特に親子の確執が描かれる。主人公である里美と汐里を中心にしてふたりの周囲の人も含めて複数の視点から描く。ただ各章のタイトルがあまりにストレートすぎていささか腰が引ける。母親とは、娘とは、子どもとは、家族とは、という具合。さらには独り、罪、幸せ、永遠、と続くのだ。それってかなり強烈なラインナップではなかろうか。だけどそこからは彼女の強い覚悟が伝わってくる。お母さんになりたかったのに、という悲痛の叫びから始まった娘との35年に及ぶ長い歳月を描く。
自分の子どもを持てなかった女が出産と同時に亡くなった親友の娘を自分の子として育てた日々。これはそれを5年刻みに描いていった小説。本人による描写と娘の側からの描写に第三者となる周囲にいた何人かの視点も挟んだ11章からなる長篇である。
さまざまな視点を得ることである種の客観性を獲得した。母であると同時に娘でもある。自分は娘と向き合いながら、自分の母とも対峙している。産み育て生きること。愛するということを確かに描いた力作である。