まるで中川さんのオリジナル台本にような印象を受ける作品に仕上がった。大竹野正典の台本を得て、それを自分の世界へと強引に引き寄せて作品化されている。台本も一部脚色をしている。大胆にもあの感動的な詩の引用部分が取り除かれるラストの変更は驚きだ。
そんなこんなで手を尽くして中川さんはこの愚かな女の行為をオリジナル以上にわけのわからないものにしてしまう。だいたいこのお話はもともと説得力を欠く。彼女がなぜ、こんなばかげたことをしてしまうのだか、よくわからないからだ。夫への恐怖から逃れるためつまらない男と共謀して夫を殺し、挙句は自分の子供まで殺してしまうというどう考えても納得のいかないお話だ。それを大竹野は役者の力にも助けられたが、強引に見せきった。
だが、今回の中川ヴァージョンは主人公のレイコを演じる石田麻菜美が、ただただ受け身になって流されていくから、まずます納得のいかない芝居になってしまう。彼女の線の細さは見ていてなんとももどかしい。だがそれは確信犯だ。中川さんはこの女のわけのわからなさをあえて前面に押し出したかったのだろう。何が彼女を追い詰めたのか。そこが見えてこないのはもどかしいけど、わかりやすいお話に背を向けてわからないからもっと見つめてみようとする。
だいたい人の心の中はそんなにわかりやすいものではない。納得のいかない衝動がわけのわからない行為へと人を導く。お金のため、というのなら、まだわかりやすい。しかし、そんな単純なことではない。この犯罪はそんな簡単なものではないのだ、ということを改めて感じさせる。