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映画・演劇のレビュー

Lonely Plumply Rabbits 『観察日記』

2011-09-21 20:42:04 | 演劇
 南陽子さんの新作である。前作『純喫茶』がとても素敵な作品だったから、今回の本格的長編にも期待が高まる。彼女の人間観察力って、なかなかのもので、芝居は、お話であることよりも、どんな人間が、どんなふうに他者と関わり合うのか、そこにポイントが置かれる。そんな彼女の視点が大々的に前面に出たのが、今回の作品であろう。だって、タイトルからして、『観察日記』である。話も人間ウォッチングである。好きになった女の子を1年間ずっと観察し続ける男の子の話だ。

 これってただのストーカーで、その男の子は「あぶない」奴だと誰もが思うだろう。ストーキングを依頼された女性は当然そんな欲求を退ける。こわいし。でも、彼はへこたれない。堂々と「僕は変態ですから、よろしくお願いします」だなんて言う。これが芝居でなければ、まじ、こわい。でも、これはハートウォーミングのお芝居ですから、そんなあぶない男の子と、彼に付きまとわれる彼女を中心にして、ほのぼのとしたお話が展開していくこととなる。

 芝居自身はこの2人を中心にして描かれていくのだが、周辺の人々も含めた群像劇になっている。特定の主人公ではなく、みんなが主人公になるというのも、南さんらしい。彼女の人間好きが高じてこんな芝居が出来た、なんて言っても過言ではない。観察することで、見えてくる人間の愛おしさ、それがテーマだ。

 なんとなく公園に集う人たち。それぞれの抱える問題を深く掘り下げるのではなく、軽く流すように描いていく。それは表面をなぜるように描く、ということではない。みんなそれぞれ悩みを抱えてひとりで生きている。誰かに悩みを打ち明けることもあるだろう。そうすることで、心が軽くなることもある。だが、問題を解決するのは自分の力だ。人に助けてもらいながら、自分の力で生きていく。そんな当たり前のことが前提にあるから、こんな芝居となる。

 とても優しいドラマだ。公園が閉鎖されそうになり、みんなで署名活動をする。そんなことしても仕方がない、なんて思わない。やれることをする。その結果公園はそのまま存続することになる。甘いよ、なんて言わさない。これはそういうドラマなのだ。話の作り方も緩いし、話自体も確かに甘すぎる。作者もそんなことは承知の上でこのお話を作っているのだ。でも、それを許せるのは、現実にはあり得ないけど、こんなコミューンがあればいいなぁ、という願望だ。そこから芝居が作られてもいいはずだ。

 大体、ホームレスとして公園で暮らす女の子、なんていう基本設定からして、ありえないことだ。そんな彼女の観察を志願して、嫌がられながらも、だんだん心惹かれていくなんていうお話もありえない。2人が結婚して、子供が生まれる、なんていうラストの展開も冗談じゃない。2人の生まれてくる前の子供が、彼らの出会いから結ばれるまでを観察しているという外側のお話までもが用意されてある。なんとも用意周到な芝居である。そんなこんなもなんだか微笑ましい。


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