辻村深月の『ツナグ 想い人の心得』を読んだ。実によかった。実は先月この『傲慢と善良』も読んでいた。こちらもすごくいい作品で、でも、忙しくて書くのを忘れていた。というか、この小説の痛さが、これについて書かす気持ちを萎えさせたのかもしれない。
結婚を直前に控えて姿を消した婚約者を探して旅することになる男。彼は彼女の何を知っていたのか、何を知らなかったのか。一生を共にする覚悟を決めたはずのパートナーのことを、彼女の心の中をまるで気づくこともなく今まで過ごしてきた自分を、知ることになる。前半は男の側のお話で、後半は失踪した女の側から語られる真実。ミステリ仕立ての作品なのだが、もちろん謎解きなんかがメインではない。
からっぽの自分と向き合う。そこから逃げ出す。気づかない愚かさ。伝えない弱さ。一緒になるってどういうことか、なんて深く考えず、結婚に踏み切る、でも、それではダメだ、という当たり前のこととこの小説は向き合う。もちろん、そんな単純な話だけではないのだけど、まず、そこから始まる。
婚活で出会った男女は普通の恋愛とは違い、純粋ではないか。そんなはずはないし、恋愛結婚以上に純粋かもしれない。まぁ、そこは比較対象にはならないというのが事実だろうけど。打算はどこにでもある。問題はそこではない。だけど、あえて婚活、というところがこの作品のみそだろう。30代になって独身で、周囲がどんどん結婚して家庭を持つ中、自分も落ち着きたいと思う気持ちが、婚活に向かわせる。焦っているわけではないけど、いや、確かに焦っている。
2年間の交際を経て、でも煮え切らない男に対して彼女が仕掛けた行為。そこから始まる物語は、人間に深層に何があるのかを考えさせる。誰がいいとか、わるいとか、そんな問題ではないけど、僕たちは、タイトルでもある「傲慢と善良」という相対するふたつが自然と共存し、気づくこともなく生きているという事実と向き合うことになる。読み終えたとき、改めて内省させれれる。自分も大丈夫なのかと。そんな小説である。