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映画・演劇のレビュー

Blue,Blue『ディプレッションとタンサク』

2007-12-09 18:42:44 | 演劇
 門田剛さんが亡くなってちょうど2年になる。ようやく、Blue,Blueが再開した。それが、何より嬉しい。門田さんが居なくなっても今までどおりに活動を続ける。そんなことが可能なのか。試行錯誤の末での今回の公演ではないか、と思う。彼が亡くなる直前に二度に亘って上演されたこの作品を、敢えて再開作品に持ってきたのは、彼への追悼公演を意識してのことではない。そこは誤解のないようにしたいのだろう、当日パンフにしっかり演出の中村賢司さんが書かれている。

 芝居が終わった後、簡単な感想を述べて辞去するとき、主宰の渡辺さんが「門田が亡くなって今日でちょうど2年になります」とぼそりと言われた。なんだか、唐突なその一言が心に突き刺さる。

 渡辺さんたちがこの芝居を通して自分たちにとっての「門田剛」と格闘し、芝居を続ける意味を模索した経過がこの芝居には描かれている。もちろん、それは、ここで空想して書くような問題ではない。ここには、純粋にこの芝居自身のことを検証していくだけだ。

 今回、空の駅舎の中村賢司さんを演出に迎え、門田さんの台本をもう1度自分たちで演じてみる。彼が何に拘り、何を見せようとしたのかは、過去の2作品で明確にされている。それをなぞるのでは意味がない。だいたい中村さんもBlue,Blueの面々も、そんなことをする気はない。では、なぜこの作品なのか。それは、門田さんが拘っていたことに対する、もうひとつの答えを提示するために決まっている。それが今回の挑戦である。

 知らないもの同士が偶然出会い、関わりを持つ。そこからドラマは始まる。初期の頃から、いつもBlue,Blueはそんな出会いを描いてきた。短い時間の中で、知らないまま、心を交わす。あまり、知らないから反対に自由になれるし、素直でいられる。深く付き合うことが、必ずしも緊密な関係を生むというわけではない。思い出して見よう。10年ほど前にここ(ウイング・フィールド)で見た『I will send to you』がまさにそんな芝居だった。知らないふたりが偶然空き部屋になっていた賃貸マンションで、一緒になり、一夜を明かすことになる、という話だ。あの頃から、描くものは変わらない。

 今はもう営業をやめた喫茶店。人目に付かない場所にある町の隠れ里のような場所。雨降りの日だけ、雨宿りに来る人のために店を開ける。そこにやって来た4人の男女。偶然ここで出会い、ほんの一時言葉を交わし、別れて行く。マスター(渡辺雅英)の淹れるコーヒーを片手に、会話する一時。マスターの長い長いお話に耳を傾ける。かってここは劇場だった。そして劇場をがなくなった後、この搬入口だったところを喫茶店にしたという彼の父親のお話だ。

 物語ること。ひとりひとりに、それぞれの物語がある。それを、さりげなく見せていく。だが、それは人に語りながらも、実は自分に向けて語られる。この芝居の独白の多さは並ではない。彼らは物語を共有するのではなく、確認するだけだ。これは5人の関係性を描く劇ではなく、それぞれが、それぞれの場所で、自分なりに生きていて、偶然出会い一瞬すれ違いまた、別れて行く、そんな姿を描く。そこで共有されたささやかな時間を愛おしいものとして見せる。

 更地となり、なにもなくなったこの場所に再び集まる5人の姿を描く後半が素晴らしい。彼らは、何ひとつ、もたれるものもない空き地で、再会する。そして、何をするでもなく、ここにいる。言葉を交わすが、本当は話すべきことなんて何もない。行きずりでしかないからだ。あの日偶然この喫茶店で雨宿りをしただけだから。知らないもの同士が、数ヶ月を経てもう一度集まり、ただ言葉を交わす。そして、また別れて行く。今度はもう2度と会わないだろう。心細いひとりぼっちたちが、それぞれ生きていく姿が描かれる。この芝居が描きたかったものはそこに尽きる。

 この芝居の白い空間が俄然生きる。劇場は舞台も客席もすべてが真っ白で統一されている。舞台には何ひとつ装置はない。コーヒーカップひとつまで、想像で見せる。(幻の観客たちが座っているから、椅子にも座れない。)

 何もないところに何かが生まれる。これはそんな芝居だ。門田さんが作った内省的な作品が、こんなにもポジティブな作品に変貌する。そこが中村さんの演出の意図だ。そして、それは見事に成功している。ラストのてんでバラバラに歌を歌うシーンもいい。

 突然雨が降り出し、いつまでもやまない秋の一日。更地となった同じ場所に集う冬の一日。2幕構成。1時間50分のこの芝居が新しいBlue,Blueのスタートとなる。ここからどこに、彼らが向かっていくのか。楽しみだ。

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