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映画・演劇のレビュー

オパンポン創造社『指切』

2007-12-09 20:18:08 | 演劇
 「野村くんが、凄いんですよ。彼を見てやってください!」とISTの佐藤香聲さんから言われた。そんなにも凄い奴って、いったいどう凄いんだか、ドキドキしながら見た。ほんま、凄いわ!突き抜けてしまっている。普通じゃない。異常だ。これだけテンションが高くて狂気を孕んだ男を舞台で見たのは久しぶりのことだ。(ババロワの高瀬くんを初めて見たときに匹敵する。)

 彼が出てきた瞬間、空間が歪む。居てはならないものが、そこに居る。見てはならない者がそこにある。そんな感じである。一種異様なオーラである。危ない芝居は確かにある。そこに危ない役者がいることもある。だが、舞台にただいるだけで、こんなにも尋常ならざる空気を充満させる人はそうそういない。

 作、演出、主演。野村侑志。ヤクザもので、タイトルが『指切』。もうそれだけでも笑える。絶対に指詰めのシーンがあると思ったが、残念ながらそれはなかった。ラストに感傷的な指切する場面は用意されている。結構泣ける場面だ。しかし、この芝居はそんな甘いものではない。

 降りしきる雨の中。赤いパラソルを持った赤いセーターの女。そこに、現れるひとりの男。ラブシーンでも始まるのかと思う甘い場面。いきなり男は女をボコボコに殴りつける。無抵抗な女を何度も何度も殴る。二人のいかにも怪しい黒服の男が現れる。しかし、この二人は女を助けるために男を止める。しかし、凶暴な男を止められない。

 この暴力的な行為がこの芝居を支配する。強烈なオープニングである。彼は女を拉致して部屋に連れ込む。女の恋人はヤクザで、自分の女が誘拐されたと知り、なんとか救出し、連れ去った男に復讐しようとする。しかし、一切手がかりはない。女の携帯に電話するが、男が出てくる。「金、用意せいや」と怒鳴られる。男が監禁する部屋は、実は女の部屋の隣の部屋である。ヤクザは女の部屋で彼女の消息をじりじりしながら、追う。

 ここまでが面白い。実によく出来た設定である。だが、その後がよくない。ここから説明が始まる。せっかくスピード感のある出だしが作れたのに、回想で順を追って、ここまでの成り行きを説明したりするから、あまりに判り易いドラマになり、少しがっかりさせられる。冒頭の場面まで、説明がようやく追いついた後、女の恋人のヤクザと拉致した男との対決が始まる。ここからでもいいからもっとハードボイルドに描けたらいいのに、ここも説明的。

 偶然この女と出会い、彼女に一瞬優しくされて、その瞬間から彼の異常なまでもの、ストーキングが始まった。一方的過ぎる激しい愛はそれだけで暴力である。彼の思い込みの激しさが、彼自身の絶対的な孤独に端を発する行為であることがさりげなく提示される。このへんは秀逸である。周囲から無視され、気味悪がられ孤立する。鬱屈した衝動は暴力となり爆発する。1度堰を切った彼の暴力は止まることを知らない。どこまでも、どこまでもエスカレートする。情け容赦もないモンスターとなる。彼の女への思いが、誘拐、さらには、自分の想いが彼女に受け入れられない(当たり前だ)と知った瞬間、彼は女を刺す。メッタ突きにする。

 野村くんの暴走する狂気がこの芝居を支える。このキャラクター設定だけでもこの芝居は成功している。すべてを自分がこなすから、息切れしているのが、残念だが、よくぞここまでやったものだ。

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1 コメント

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ありがとうございました。 (野村侑志・オパンポン創造社)
2007-12-12 11:43:56
先日は、年末のお忙しい中、ご来場頂き誠にありがとうございます。
そして暖かく的確なお言葉ありがとうございます。

仰って頂いた事を考慮し、勿論、自分と言う物も崩さず
今後も創作活動を続けていく所存ですので
今後とも少しでも気に掛けて頂ければ幸いです。

本当にありがとうございました!

追伸・役者の部分もお褒め頂き感謝です。
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