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映画・演劇のレビュー

『武士の家計簿』

2010-12-07 22:46:32 | 映画
 『家族ゲーム』から27年。やはり森田には家族映画が似合う。今という時代に何が求められているのか、ということの答えがこの幕末を描いた時代劇の中にはある。しかも動乱の時代を描くのではなく、どこにでもある家庭劇という中でそれを見せることになるのだ。単純に、貧しさもまた楽し、というような映画ではない。

 経済成長が止まり、景気は悪いまま回復しない。そんなどうしようもない時代にあって、人はどこにむかって、どんなふうにして生きていけばいいのか。そんな大きな問題に対して、ひとつの指針が示される。

 膨らんでいく借金を、どうするのか。手をこまねいているだけでは破滅である。だが、どうしようもない。思い切った政策が必要なのだ。痛みは国民みんなで共有するしかない。どこかで誰かが不正を働いて、歪んだ世の中を作っているとしても、自分の力ではどうにもならないことであろうとも、自分だけは曲げることなく生きる。何が正しくて何が間違いなのかなんて、誰にもわからない。だからこそ今は信念を持って、自分を貫いていくしかない。それをひとりの男に象徴させて見せる。家族の話が今の日本のことにもスライドさせることが可能なのだ。もちろんそんなこと一切考えなくてもいい。この映画は、ひとりの「そろばん侍」を通して、彼が自分の家族をいかに守ったのか、が描かれる。

 だが、そこは森田映画である。難しい映画ではない。軽やかで、ユーモアに富み、とても楽しい映画に仕上がっている。ディテール重視で、彼ら下級武士の生活を山田洋次とは違った視点から丁寧に描いて見せる。とてもリアルに見える。江戸時代の家族の生活を、こんなにもきちんと見せてくれた映画は他にはないだろう。それだけでも快挙である。

 だが、当然そんなことに止まらない。ここに描かれる家族のあり方は普遍性を持つ。森田芳光監督はこの映画を通して、今、を描くのである。そして、今更、家族の絆とか、夫婦愛とか、そんなところに話を収められても納得はいかないはずなのに、とても保守的なはずのそんな結論が、バカに出来ないほどの説得力を持つ。人は豊かになればなるほど、いろんなものを失うことになる。もちろん、だから貧乏がいい、なんて言わない。そうじゃなく、生きる喜びは、ほんのちょっとした工夫から生まれてくるということが、言いたいのだ。もちろんその答えも平凡すぎてつまらないかもしれない。しかし、そんな当たり前を受け入れることから始まる。この映画が描くのはその1点である。

 堺雅人と仲間由紀恵がすばらしい。彼らだけでなく父親の中村雅俊、母親の松坂慶子。祖母の草笛光子ほか、この家族ひとりひとりが生き生きと描かれる。


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