こういう小さな映画が好きだ。マーク・ウェブは最初の『(500)日のサマー』が素晴らしかったのに、大作『スパイダーマン ホームカミング』を任されてバランス欠いた作品を作ってしまう。でも、あれはあれでチャーミングだったけど、きっと世の中の期待には添わなかったはずだ。『ギフテッド』も悪くはなかったけど、彼にはこういう青春映画が似合う。この自画像のような作品は誰もが感じる「生きていくことの大変さ」がちゃんと(でも)甘やかに描かれていて、そこが彼らしい。88分という上映時間もいいし、登場人物が6人というのもいい。もちろん、主要人物が6人ということで、ニューヨークが舞台だし、街にはたくさんの人たちがここで暮らしているし、生きている。大都会の中で、たくさんの人たちと関わりを持ち、彼はこれから自分の人生に立ち向かう。そのスタート地点がここでは描かれることになる。
実家から離れてひとり暮らしをする。といっても、同じニューヨークの街の中だ。彼は「これからはニューヨークではなくフィラデルフィアがアメリカの中心になるホットな街だ」、とか、いうのだが、その根拠は示されない。ここではないところへ、自分が生きる場所へ、と思いながらもそれが見つけられない。裕福な家庭に育ち、父親の経営する出版社に入社すると将来は保証されたようなものだ。でも、それは嫌だ、と思っている。好きな女の子はいるけど、彼女には自分とは別に恋人がいる。でも、彼は「彼女じゃなくっちゃダメだ、」と思っている。そんなとき、父親が若い女とデートしている現場を目撃してしまう。
狭い世界の話だ。恋人、父親とその愛人。そして、最愛の母親。そこに、彼の住むアパートに新しく引っ越してきて隣人が加わる。彼の指南役となるその隣人をジェフ・ブリッジスが演じる。久々の彼の登場がうれしい。近所のへんなおじさんというキャラで謎めいて登場して、そうだったのか、という納得の展開になるのはいかにも映画、なのだが、悪くない。
大学を卒業したけど、仕事には付いていない20歳前半の青年が主人公で、彼は、自分のことではなく、父親のこと、母親のことを心配する心優しい青年だ。でも、それって実をいうと今の自分の現実から逃げているだけ、という一面も大だ。彼の弱さがそこに露呈する。
この映画はお話があまりによく出来すぎていて、作品世界は狭すぎるのだが、この視野の狭さこそがこの作品の大事なところなのだ。彼がほんとうの意味で家を出るまでのお話。すべてを受け入れて、ちゃんと立つ。ふたりの父親を通して、彼らの愛情を素直に受け止め、母親の苦しみを理解して、改めて自分の立ち位置を確認する。ここからひとりで生きていく。でも、家族はちゃんと彼を見守ってくれる。その安心が彼を支えてくれる。甘い映画だ。だけど、こういう甘さが大切なのではないか。サイモン&ガーファンクルの”The Only Living Boy in New York”を原題にしているから、というわけではないけど、これは『卒業』を想起させる。地味で小粒だけどこれは青春映画の傑作だ。