新海誠監督の本格的メジャーデビュー作は今、スマッシュヒットとなっている。初日に見に行ったら、満席で、入れなかった。というか、その日は入らなかった。(代わりに『ゴーsトバスターズ』を見た。)あまりに満員の劇場は嫌だったので。でも、一刻も早く見たくて、公開4日目、月曜のレイトショーでのんびり、見ようと(しかも、30分も前に)劇場に行くと、またもや、満席で、仕方なく、前から4列目に中央が1席空いていたので、そこで見ることにした。なんだか、うれしい。
たまたまお正月のTVで『秒速5センチメートル』を見た時の感動は忘れられない。新海誠の特集をしていた。あまり、期待しないで見た。彼のことを知らなかったのだ。とんでもないものを、見ている、と興奮した。(その時のことは、きっと、このブログのどこかに書いているはず。)それから、全作品を一気に見た。
『言の葉の庭』からはリアルタイムで見ている。でも、まだ2作目だ。これから、彼の才能が広く世界に認知され、花開くのだろう。それを目撃出来る僕たちは幸せだ。宮崎駿も、高畑勲も、初期の頃から、ずっとリアルタイムで見てきたけど、新海誠は、少し遅れてしまった。でも、まだ、充分間に合う。今回、この映画と出会うたくさんの人たちは、ちゃんと驚こう。日本にはこういう才能がある。
期待しすぎて、オープニングの軽さにひいてしまう。「えっ!」って感じだった。もっと静かで落ち着いた映画を無意識に期待した。あきらかに、『言の葉の庭』の流れで見ている。もちろん、あの作品に続く新作長編だから、そういう期待をするのは当然だろう。でも、あっさりと、却下される。軽やかで、甘い。メジャーを意識した作劇か、と思った。もちろん、そうである。でも、そうじゃない。彼はあくまでも自分の想いに誠実だ。作りたいものを作る。
あらゆる要素をこの1作に盛り込んだ。でも、とても上手く計算されている。ヤケクソではなく冷静なのだ。後半思いもしない展開になる。一体どこにたどりつくのか、不安にさせられるほどだ。少年少女のラブストーリーだと、高をくくっていると、火傷する。これは、もちろん『シン・ゴジラ』同様、3・11以降の作品である。だが、それをこんなにもあからさまに、さりげなく、盛り込んだ。惨劇のドラマから再生のドラマへ。
だから、スケールの大きなメジャー大作になる。それを無理することなくやりきる。作家として彼のここまでの集大成になっていると同時に、ささやかなスタート地点にもなっている。これは、たぶん宮崎アニメにおける『風の谷のナウシカ』のポジションだ。これから、彼は宮崎駿と同じようにアニメ界の第一人者として、世界から期待される映画を作ることになる。期待に押しつぶされることなく、自分のペースで作るといい。
さて、この映画の話を少しだけ、しよう。これは、大林宣彦監督の初期の傑作『転校生』と『時をかける少女』へのオマージュだ。あの2作品の切なくて悲しい、でも、愛おしいラブストーリーを根底にした。ラストシーンなんて、『時をかける少女』そのものではないか。もう、そこに至ることはわかりきっていた。絶対にこの映画はそこにたどりつく。どれだけの苦難が待ち受けていようとも。そう信じさせる映画だ。でも、どれだけの苦難が2人の前に立ちはだかるのか。それはもう想像を絶する。甘くて切ない胸キュン映画を期待した人たちはこの壮大な冒険に振り落とされないように。
さぁ、これから映画を見る人のため、ここではこのくらいにしておこう。今年一番の傑作を自分の目で目撃せよ! 新しい歴史の始まりに立ち合おう。