リドリー・スコットの最新作である。昨年の『最後の決闘裁判』に続き、もう新作が登場してくる。高齢(84歳)なのに続々と精力的に映画を作り続けるのは凄い。しかも、いずれも製作も兼ねて、手が掛かる大作仕様の映画ばかりだ。それだけではなくさまざまなジャンルの作品を手掛けるし。彼はいくつになってもありとあらゆるものへの興味関心を失わないだろう。
今回はグッチの一族のお話である。ただ、今回は少し残念だった。僕は「お金持ちって大変だなぁ、」くらいした思わないから、この映画を見てもあまり何も感じなかったのだ。描かれることがあまりに他人事過ぎて共感も嫌悪も抱けない。最初のレディ・ガガ演じる女性の描写は面白く、彼女が何を思い、彼(グッチ家の息子、ね)と関わるのか、気になったけど。
登場人物の誰にだって感情移入できないから、ドキドキしないし、遠くから眺めているだけ。でも2時間39分退屈することはなかった。さすがリドリー・スコットである。豪華で、僕なんかの全く預かり知らない世界をしっかり垣間見せてくれる。だいたいこのお話の内容だって知らないまま、映画を見始めた。グッチって有名ブランドだよな、という程度の認識。それって、さすがにモノを知らなさすぎるだろうけど。
せめて主人公ふたりのどちらかに感情移入でもできたらいいのだけど、そういう作りをしていない。どっちかにフォーカスされていない。映画は客観的に醒めた目でこのできごとを見つめていく。レディ・ガガ演じる女は最初からお金が目当てだったのか。最初はグッチという家に惹かれて結婚したようには見えなかったのに、気が付いたら、お金に目が眩んで執着している。アダム・ドライバー演じる大富豪の跡継ぎ息子は、あまり家業に執着はない。最初は弁護士を目指していたのに、彼女との結婚に目が眩んで、勘当されて家を出る。妻の家族は家を追い出された彼を無条件で受け入れてくれる。そして幸せな結婚をする。彼女の実家の運送業を手伝い楽しく過ごす。ボンボンのただのお遊びではなく、彼は真剣に仕事に向き合い喜びを感じていた。でも、唯一の跡継ぎだからということで当然呼び戻される。
このへんからがお話の本題なのだけど、僕が面白かったのはここまでで、ここからのお話は先にも書いたように、人ごとでしかないし、主人公のふたりがだんだんおかしくなっていく姿を見ていると、なんだかなぁ、と思うばかりだ。ふたりがおかしくなるのを冷静に見つめる中から、映画がもう少し違う何かを見せてくれたならよかったのだけど、それがないから、ただ事実を見守るだけで終わる。ジェレミー・アイアンズの父親とアル・パチーノの叔父というふたりの怪物と若い夫婦がどう向き合い、どういう答えを出していくこととなるのか。そういう大人対子供の対決が描くべきことだったのではないか。そこにお金の問題が絡んで切るとどういう化学変化を起こすのか。大富豪の一族の崩壊という大きなお話より、家族の問題という小さなお話からグッチの一族を描いてくれたなら、映画はもっと普遍性を持てたし、僕でも楽しめたのではないか。