なんと3時間に及ぶ超大作なのだ。途中1度さすがに休憩が入るが、2時間まではノンストップだ。(途中休憩をちょうど半分のところには設定しない、のもいい。息切れするまでは走り続けるのだ。)シーンの繋ぎもザッピングで急展開させていく。短いエピソードを積み重ねて、考える暇を与えない。あれよ、あれよと言う間にどんどんお話は進行していく。回文書で綴られる各章のタイトル。振り落とされても構わない。まず、目の前で起きている出来事を刮目せよ!
いくつものエピソードが同時進行していく。やがて、梔子家の秘密に至る。怪奇探偵ツカサ(月冴と書くらしい。パンフを見て知った。彼女だけではなく、すべての名前がこんな感じ)が「最初から犯人の知れている怪事件」に挑む。殺害された百合の遺体が消えた。誰がどこに連れて行ったのか。何の目的で? 梔子家の4姉妹は何を隠しているのか。さらには、3女が通う日本奇怪学校中等部の旧館、誰もがたどりつかない場所で、糸居かると先生は何を見たのか。謎が謎を呼ぶあやかしの万華鏡。
横溝正史の怪奇探偵小説を読んでいるような感じだ。もちろん金田一耕助が主人公のものだ。ようするに『犬神家の一族』や『獄門島』である。それに夢野久作をブレンドした。(『ドグラマグラ』の世界ね。)とてもわかりやすい設定だ。そんな世界の中で思い切り遊んで見せる。パロディではない。亀井さんのオリジナルな世界だ。
お話には特別な新しさなんかない。よくあるお話だろう。だから、複雑なストーリー展開をしてもまるで気にならない。先にも書いたがストーリーの流れについていけなくてもかまわない、というのはそういうことだ。「普通の事件には興味のない怪奇専門の幼女探偵」という主人公の設定にまず、笑える。幼女探偵! である。本人は400歳というけど、ほとんど妖怪。鬼太郎の世界である。彼女とコンビを組む狸の化身である助手や、彼女に事件を依頼する刑事(パンフには特別奇怪警察9番隊長、とある)というような定番のキャラも登場して、お話は展開していく。パターンを踏まえることで、自由自在になる。
これはエンタメというよりも昔懐かしのアングラ劇。仕掛けだらけなので、きっかけがたくさんあり、スタッフ、キャストは大変だったはずだが、観客は大喜びだ。昔の赤テントの芝居(今の唐組ではない)を見ている気分だ。こういう芝居を見たかった。楽しくて、ドキドキして、ラストでは、ちょっとホロリとする。劇場を出た時の満足感。小劇場演劇の本来の魅力を満載した盛りだくさんの超大作。ゴールデンウィーク最高の一作だった。