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映画・演劇のレビュー

有吉玉青『僕たちはきっとすごい大人になる』

2012-07-11 20:36:56 | その他
 僕はきっとすごいことをする。今はこんなふうに、ただくすぶっているけど、きっとそのうち、ブレイクしてやる。そんなふうに信じる若者って、今時いるのだろうか。野心を抱く、って若者の特権だったはずだった。しかし、こんな時代になり、誰も未来に夢や希望を持たなくなっているような気がする。ただ、なんとなく生きれたならいい。そんな気分が横溢する時代に、このタイトルである。思わず、手にして、すぐに読み始めてしまった。有吉玉青のいう「すごい大人」ってどんな大人なのか、とても気になったからだ。

 ここに出て来る小学生たちは、壮大な野望を持っているのか、といわれると、そうではない、と言うしかない。彼、彼女らは将来なんか考えず、今を生きることで精一杯だ。あれっ、それって、タイトルと違うじゃないか、と一瞬考えてしまう。だが、ここで描かれるのは、そんなことじゃないとすぐにわかるから大丈夫。

 大切なことは、この子たちの見ている現実だ。大人になると、見えなくなってしまうリアルが、この子たちにはちゃんと見えている。何が大事で、大切なことなのか、何がどうでもいいことなのか。それが打算からではなく、本質として見極めることができる。だからすごいのだ。このまま、この子たちが大人になれるわけではないけど、こんな彼らが大人になったとき、何をすることになるのか、それがとても楽しみだ。そして、もちろん、僕らは、彼らを見失ってはならない。

 6人の子どもたちのそれぞれの戦いは、大人になるためのイニシエーションにとどまらない。それは生きていくための大きな力になる。この気持ちを忘れることなく生きられたなら、きっとこの子たちは、すごい大人になれると、作者は思ったのだろう。だが、それってとても困難を伴う。どんどん大人に染まってしまい、もともと持っていたものを、見失う。やがて、つまらない大人の一丁上がり、である。いつまで、どれだけ抵抗できるのか。それが、大人の課題だ。そんなことを考えながら、この子どもたちの戦いを見つめる。



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