なんだこれは、と思うわせるほどに、この小説はへんてこで、そのことを、包み隠さず描くから、とても好感が持てる。これを気取ってされると、きっと、鼻につく。おまえはカフカか、と突っ込みを入れられるはず。そんなことわかってるから、確信犯です、と居直る。
この人物は実はいません、とか、これはもう死んでます、とか、そういういきなりの説明がおかしい。わかりました、と思わず答えたくなるほど、フレンドリーな気分にさせられる。従来の長野まゆみの小説とは少し肌触りが違う。
兄と弟は合わせ鏡で、もしかしたら、同一人物か、なんて、思わせるのは凡庸だから、まぁ、そんなことはどうでもよろしい、という感じ。どこに本当が隠されているのか、真実はどこにあるのか、そんなのも、興味ない。49章からなる短いお話の連鎖。読みやすい。「複雑なモザイク画」のような構成だけど、あまり気にせず読み流していける。整合性にこだわる必要がないから、楽。
衝撃的なラストも待ってないから、それもいい。軽くもなく、重くもない。適度なバランスが取れている。謎が謎を呼ばない。まぁ、適当に謎です、って、感じ。いくつもの2重構造が施されてあり、それが、あまり複雑ではないのがいい。悩まないで済むし。実に読みやすくて、楽しい時間だった。ライトノベルになった村上春樹、って感じ。