『うちに帰ろう』の広小路尚祈の新作だ。だいぶん甘い小説で少し残念だけど、読みやすくて、気持ちのいい作品だし、悪くはない。でも、彼が書かなくてもこんなタイプのハートウォーミングならどこにでみあるのではないか。呼応する8つのお話は、いずれも深夜を走る寝台特急「北斗星」の中でのささやかなドラマだ。特別なことはない。「袖触れ合うも他生の縁」というくらいのドラマしか起きない。あたりまえだ。これでも触れ合いすぎではないか、と思うくらいだ。映画や小説ではないのだから(あっ、小説ですが、これは)たまたま乗り合わせただけの他人と縁が生じたりはしない。
それぞれが、それぞれの事情を抱えて、この特別な列車に乗り込む。上野から札幌まで。(もちろん、その反対もある)単純に贅沢な夜行列車の旅を楽しむ人もいるが、そんな人たちも含めて、みんながさまざまな事情を抱えてこの列車に乗リ込む。広小路尚祈はそこに深追いはしない。さらりと流すように描いていく。だから、少しもの足りない気分にさせられるのだが、実はそこもまた作者のねらいだったのかもしれない。この淡さこそが描きたかったものなのだろう。バランス感覚が作品の成否を分ける。僕は少し甘すぎる気がした。そのへんの匙加減は難しい。