なんと600ページ以上もある。そこには120以上の掌編が収められてある。川端文学の集大成。昔読んだことがある(気がする)が、あまり面白くはなかった(気がする)。子どもだったから、か。今60を過ぎて、読み返すと、やはりあまり面白くない。10代の感覚は正しい。というか、僕はまだ「お子ちゃま」なのかもしれない。忘れたがたぶん当時は途中で投げ出してしまったのだろう。
あまり面白くないと書いたのだが、決してつまらないわけではなく、実はかなり面白いが、敢えてそう言ってみた。負け惜しみだ。一部難解過ぎてついていけなかっただけ。
先日、佐伯一麦×小川洋子の『川端康成の話をしようじゃないか』を読んだから、気になって、今回改めて読んでみることにしたのだが、かなり難解。というか、理解不能。いや、わかりたくない。漱石の『夢十夜』は10話だが、これはその12倍ある。悪夢の果てしない連鎖。
一篇はたった3、4ページのお話が、一度読んだだけでは「えっ?」って言うようなあっけなさとわからなさ。すぐに読み返すことになる。だからなかなか先に進まないけど、構わない。すべて読むことが大事なのではなく、ひとつひとつをしっかり読むことが大事。川端が40年かけて書き綴ったものだから、ね。それにそれぞれは当然独立した掌編だし。
今回10日間の旅のお供にこれを持ってきたのは正解だった。(これと『みずうみ』の2冊)毎日ゆっくり少しずつ読んでいる。3年8ヶ月振りの海外。台湾でのんびり過ごす毎日。高雄と台北でぶらぶらするだけ。今日で3日目。
1日目。読みながら、この人はやばい、と思った。かなりのロリコン。少女愛が凄い。そう言えば『伊豆の踊子』もそういう小説だった。(『指輪』も少女が裸で手を振っている)『雪国』の島村もエグい男だったし。『山の音』もそうだ。昔読んだ時には気にしてなかった(10代だったから、ね)だけで、こんなにもあからさまに危ないオヤジだったのか、と理解する。母親との話も微妙。大胆で危険、そして非情。
2日目。どこを取ってもやばいが『写真』とか『金糸雀』とか、あんまりじゃないかと思った。無邪気な顔してるだけに、余計に怖い。おとなしいけど、気がつくと平然と犯罪者になる、って感じ。児童ポルノとか好きそうな。もちろんイメージである。
谷崎なんかより、もっと酷いかもしれない。かなりやばいムッツリである。ということで、なかなかこれは面白い。『母』『心中』『霊柩車』。あげていくと限りがない。
まだまだ続く。3日目。『恐ろしい愛』『馬美人』『百合』と読みながら震えてる。そのへんのホラーが束になっても及ばない怖さ。『処女作の崇り』まで読んでもまだ半分も読んでいない。
いま夜中の2時。『神の骨』を読んだところで本を閉じた。こんな怖いものをこれ以上読めば、身体に障る。ストーリーは記さない。4ページほどの小説を説明するのにかなりの分量が必要だからだ。読む方が早い。女は死んだ赤ちゃんの骨を関わりを持った5人の男たちに配って、男は平然と骨を処分する。そんな小説を書くのが川端康成という男だった。