今年のHPFはすごいことになるかもしれない。そんな期待を抱かせるオープニングプログラムだ。もちろん今回の23作品のうちで、工芸高校のこの作品が、きっとベストアクトになるだろう。これ以上の発想の作品は例年の感触から、出てくる可能性は少ないからだ。それくらいにこれはすばらしい出来なのだ。
今回のプログラム全体を掲載したパンフレットを見渡した印象は、各高校がそれぞれに本気で自分たちの表現を目指している、という意気込みがしっかり伝わってくるな、と感じられたことだ。けっこう「とんがった」オリジナル作品が多いようで、芝居の方向性やテーマが明確に感じられるものも多いのではないかと思う。これからが楽しみだ。
さて、工芸の『プラズマ』である。夏の高校野球地区大会準決勝。後少しで甲子園が見えてきた8回裏、逆転のランナーが3塁をまわったとき、ホームべース直前で、彼が突然立ち止まって、動かない。真っ赤なワンピースの女が彼の足をしっかり掴んで離さないのだ。この衝撃的なエピソードから始まる。その後、チームは負けてしまい、彼は、その日から自宅の自分の部屋にひきこもることとなる。
あの時、彼には確かに見えた。グランドで、自分の脚にすがりつく少女が見えたのだ。左足には今もその時の感触が残っている。もちろんそれは彼だけが見た幻だ。だが、その幻に囚われて、彼はもう人と関わることが出来なくなる。
このエピソードを皮切りにして、その後の展開も意外性の連続だ。これはただのひきこもりの少年の話ではない。ひとりきりの彼の部屋に再び、あの少女があらわれる。彼女はマッチ箱を少年に渡す。そのマッチによって少年は連続放火魔と化す。家屋に放火をするのではなく、人間の体を燃やすのだ。彼にマッチをくべられた相手は、まるで自分自身の内側から発火するようにして燃え出す。
ドラマはこの少年と、彼の恋人、彼の兄、の3人のドラマ(なぜか、彼の両親は描かれない)を中心にして、放火犯を追いつめていく刑事達のドラマを並行して見せていく。とりあえず、わかりやすい娯楽活劇のスタイルを踏む。
しかし、最後には少年とその兄の確執へとシフトチェンジしていく。この構成の見事さ。自嘲的なニート青年である兄の、弟に対するコンプレックスがドラマの根底に用意されてある。少年と彼が生んだ赤いワンピース(もちろん赤は炎の色だ!)の少女の話が、程良いバランスで配置されてある。さらには、この二重人格の殺人鬼は、自分の恋人であるクラスメートの少女まで簡単に殺してしまうという驚くべき展開が用意される。
ルーティーンワークには決してならない。意外性でドラマをどこまでも引っ張っていく。ラストで広島に原爆を落としてしまうのは、ちょっとやりすぎだ、と思ったが、その直前の、光に包まれた少年が消えていくシーンが秀逸である。
役者たちは1年生を含めて、とてもうまい。個性的で癖のある役者ばかりで実に魅力的だ。特に、主人公のいずなを演じた中山美咲と、兄のなゆたを演じた河井朗(彼は演出も兼ねる)がすばらしい。
今回のプログラム全体を掲載したパンフレットを見渡した印象は、各高校がそれぞれに本気で自分たちの表現を目指している、という意気込みがしっかり伝わってくるな、と感じられたことだ。けっこう「とんがった」オリジナル作品が多いようで、芝居の方向性やテーマが明確に感じられるものも多いのではないかと思う。これからが楽しみだ。
さて、工芸の『プラズマ』である。夏の高校野球地区大会準決勝。後少しで甲子園が見えてきた8回裏、逆転のランナーが3塁をまわったとき、ホームべース直前で、彼が突然立ち止まって、動かない。真っ赤なワンピースの女が彼の足をしっかり掴んで離さないのだ。この衝撃的なエピソードから始まる。その後、チームは負けてしまい、彼は、その日から自宅の自分の部屋にひきこもることとなる。
あの時、彼には確かに見えた。グランドで、自分の脚にすがりつく少女が見えたのだ。左足には今もその時の感触が残っている。もちろんそれは彼だけが見た幻だ。だが、その幻に囚われて、彼はもう人と関わることが出来なくなる。
このエピソードを皮切りにして、その後の展開も意外性の連続だ。これはただのひきこもりの少年の話ではない。ひとりきりの彼の部屋に再び、あの少女があらわれる。彼女はマッチ箱を少年に渡す。そのマッチによって少年は連続放火魔と化す。家屋に放火をするのではなく、人間の体を燃やすのだ。彼にマッチをくべられた相手は、まるで自分自身の内側から発火するようにして燃え出す。
ドラマはこの少年と、彼の恋人、彼の兄、の3人のドラマ(なぜか、彼の両親は描かれない)を中心にして、放火犯を追いつめていく刑事達のドラマを並行して見せていく。とりあえず、わかりやすい娯楽活劇のスタイルを踏む。
しかし、最後には少年とその兄の確執へとシフトチェンジしていく。この構成の見事さ。自嘲的なニート青年である兄の、弟に対するコンプレックスがドラマの根底に用意されてある。少年と彼が生んだ赤いワンピース(もちろん赤は炎の色だ!)の少女の話が、程良いバランスで配置されてある。さらには、この二重人格の殺人鬼は、自分の恋人であるクラスメートの少女まで簡単に殺してしまうという驚くべき展開が用意される。
ルーティーンワークには決してならない。意外性でドラマをどこまでも引っ張っていく。ラストで広島に原爆を落としてしまうのは、ちょっとやりすぎだ、と思ったが、その直前の、光に包まれた少年が消えていくシーンが秀逸である。
役者たちは1年生を含めて、とてもうまい。個性的で癖のある役者ばかりで実に魅力的だ。特に、主人公のいずなを演じた中山美咲と、兄のなゆたを演じた河井朗(彼は演出も兼ねる)がすばらしい。