進学校からドロップアウトして、誰も自分のことを知らない人ばかりの農業高校に入学した。そんな男の子の1年間のお話。この手の青春映画は枚挙に暇がないけど、この映画は凡百のその手の甘いラブストーリーとは一線を画する。吉田恵輔監督なのだから、当然だろう。
これはまず何よりも酪農についての映画なのである。なんと校内を1周すると20キロもある。どんだけ広いのか、目の前で映像として見ているにも関わらず、想像もつかないスケールなのだ。そんな広大な敷地の中で、彼らは暮らす。普通の高校ではない。みんな家が農家で、家業を継ぐためにここに来ている。
そんな中、主人公の八軒(中島健人)は何もする気がない。サラリーマンの家で父親の期待を一身に背負って中学まで生きてきた。でも、もうあっぷあっぷで、息もできない状態になっていた。夢も希望もなく、ただ目の前の現実から逃避することだけを目指して、なんとなく、ここに来たのだ。
でも、本当はそれだけではないはずだ。よりによって農業である。今までまるで接点がない場所で不安もたくさんあったはずだ。最初はただ、家を出たいだけのはずだった。農業高校は全寮制の学校だから、本当に最初はただそれだけの動機だったのかもしれない。だが、どこかに酪農というものへのあこがれのようなものもあったのだろう。気付かないだけで、動機は逃避だけではないはずなのだ。だから、がんばれる。
それでなくては、こんな過酷な現実をここまでちゃんと受け入れられない。潜在的に、ここに「何か」を期待した。
よくわからないけど、彼はここが好きになる。何一つ農業について知らなかったのに、ここで学ぶことのひとつひとつが彼の心と体に沁みてくる。想像を絶する世界がここにはある。僕たち観客もまた彼と一緒にいろんなことを学んでいく。こんなにも新鮮な気分で、描かれることに反応できるなんて、めったにない体験だった。酪農農家を巡る様々な過酷な現実もちゃんと描かれる。でも、それでも、ここにいたいと思う。現実を受け止めながら、それに負けない。だってここには本当の夢があるからだ。甘い映画ではない、でも心地よい。ここで描かれる辛さが映画にリアリティーを与える。夏休み、クラスメイトの牧場でバイトをしてひと夏を過ごす。そこでの経験が彼を変えていく。
もちろん、お決まりの展開もある。だが、それは高校生活の定番でそんなことも含めて新鮮に受け止められる。文化祭で彼の所属する馬術部は、ばん馬レースを企画する。草刈から始めてレース場を作る。何もないところで、一から立ち上げていく姿を延々と見せる。主人公の八軒が、黙々と作業する姿が感動的だ。それはとてもじゃないが不可能なことだった。だが、やがて集まったみんなの協力でやり遂げる。こういうありきたりな展開は普通なら鼻白むところなのだが、そんな安易にも見える描写に説得力を持たせるから、この映画は信用できるのだ。そんな定番の展開がありきたりではない。とても美しいシーンとなる。
借金から離農を強いられるクラスメイトのエピソードをはさみながら、どうしようもない現実から目をそらすことなく、自分たちの夢を実現させていこうとする。あきらめるのではない。最初はなにがなんだか、わからないまま、ただ流されていた。担任から「将来の夢は?」と聞かれて何も言えなかった、そんな少年が、親友に夢をあきらめるな、というまでに成長していく。この1年間のひとつひとつが彼をどんどん成長させていったのだ。
映画は淡々としたタッチでひとつひとつの出来事を丁寧に追いかける。音楽で盛り上げたり、感動の押し売りとかは一切ない。だが、それがこの映画の魅力を形成する。いろんなことが(知らなかったことばかりだ!)ここでは当たり前のこと、として描かれるのがいい。生きてる。ただ、がむしゃらにここにいて、目の前の現実と向き合い、目の前の壁を乗り越えていく。ただ、それだけ。でも、そうしているうちに、彼は生き生きとしてくる。これが生きていることなのだ、と気付かされる。いつのまにか、みんなの先頭を切って走っている。そんな八軒の姿がまぶしい。
これはまず何よりも酪農についての映画なのである。なんと校内を1周すると20キロもある。どんだけ広いのか、目の前で映像として見ているにも関わらず、想像もつかないスケールなのだ。そんな広大な敷地の中で、彼らは暮らす。普通の高校ではない。みんな家が農家で、家業を継ぐためにここに来ている。
そんな中、主人公の八軒(中島健人)は何もする気がない。サラリーマンの家で父親の期待を一身に背負って中学まで生きてきた。でも、もうあっぷあっぷで、息もできない状態になっていた。夢も希望もなく、ただ目の前の現実から逃避することだけを目指して、なんとなく、ここに来たのだ。
でも、本当はそれだけではないはずだ。よりによって農業である。今までまるで接点がない場所で不安もたくさんあったはずだ。最初はただ、家を出たいだけのはずだった。農業高校は全寮制の学校だから、本当に最初はただそれだけの動機だったのかもしれない。だが、どこかに酪農というものへのあこがれのようなものもあったのだろう。気付かないだけで、動機は逃避だけではないはずなのだ。だから、がんばれる。
それでなくては、こんな過酷な現実をここまでちゃんと受け入れられない。潜在的に、ここに「何か」を期待した。
よくわからないけど、彼はここが好きになる。何一つ農業について知らなかったのに、ここで学ぶことのひとつひとつが彼の心と体に沁みてくる。想像を絶する世界がここにはある。僕たち観客もまた彼と一緒にいろんなことを学んでいく。こんなにも新鮮な気分で、描かれることに反応できるなんて、めったにない体験だった。酪農農家を巡る様々な過酷な現実もちゃんと描かれる。でも、それでも、ここにいたいと思う。現実を受け止めながら、それに負けない。だってここには本当の夢があるからだ。甘い映画ではない、でも心地よい。ここで描かれる辛さが映画にリアリティーを与える。夏休み、クラスメイトの牧場でバイトをしてひと夏を過ごす。そこでの経験が彼を変えていく。
もちろん、お決まりの展開もある。だが、それは高校生活の定番でそんなことも含めて新鮮に受け止められる。文化祭で彼の所属する馬術部は、ばん馬レースを企画する。草刈から始めてレース場を作る。何もないところで、一から立ち上げていく姿を延々と見せる。主人公の八軒が、黙々と作業する姿が感動的だ。それはとてもじゃないが不可能なことだった。だが、やがて集まったみんなの協力でやり遂げる。こういうありきたりな展開は普通なら鼻白むところなのだが、そんな安易にも見える描写に説得力を持たせるから、この映画は信用できるのだ。そんな定番の展開がありきたりではない。とても美しいシーンとなる。
借金から離農を強いられるクラスメイトのエピソードをはさみながら、どうしようもない現実から目をそらすことなく、自分たちの夢を実現させていこうとする。あきらめるのではない。最初はなにがなんだか、わからないまま、ただ流されていた。担任から「将来の夢は?」と聞かれて何も言えなかった、そんな少年が、親友に夢をあきらめるな、というまでに成長していく。この1年間のひとつひとつが彼をどんどん成長させていったのだ。
映画は淡々としたタッチでひとつひとつの出来事を丁寧に追いかける。音楽で盛り上げたり、感動の押し売りとかは一切ない。だが、それがこの映画の魅力を形成する。いろんなことが(知らなかったことばかりだ!)ここでは当たり前のこと、として描かれるのがいい。生きてる。ただ、がむしゃらにここにいて、目の前の現実と向き合い、目の前の壁を乗り越えていく。ただ、それだけ。でも、そうしているうちに、彼は生き生きとしてくる。これが生きていることなのだ、と気付かされる。いつのまにか、みんなの先頭を切って走っている。そんな八軒の姿がまぶしい。