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映画・演劇のレビュー

『指輪をはめたい』

2011-12-09 21:25:15 | 映画
 『檸檬のころ』の岩田ユキ監督の待ちに待った最新作である。しかも、今回は恋愛コメディーだ。クラシックな青春映画だった前作から一転して、ドタバタ劇のようにも見えるこのコメディーを彼女がどんなふうに扱うのか、ちょっとドキドキした。

 だが、映画は最後までまるではずまない。かなりたっても笑えないし、楽しめない。一見ちょっと変な感じの脱力系(三木聡のような)のようにも見える。だが、そこまでスタイリッシュではない。これはちょっとやばいな、と思う。頭を打って記憶をなくした男(山田孝之)が、自分が以前3人の女と同時につき合っていたらしい、ということを知る。鞄の中には婚約指輪がある。果たして、自分はこの指輪を誰に渡すつもりだったのか、という話しなのだが、謎はすぐ解けてしまうし、まるで話にはひねりがない。

 彼は二股ではなく、なんと三股をかけていて、三人と上手くつき合っていたというドンファンで、しかも本命の女は別にいる。実は彼女に棄てられたことで、この3人とつき合っていたみたいなのだ。このなんとも酷いことをする男を主人公にして、彼が記憶喪失から立ち直ると同時にどんな人生を選ぶのかが描かれる。終盤、すべてが明らかになったところから、シリアスなドラマになり、思いもしない感動に出会える、というスタイルに落ち着くはずだったのに、なんかまとめ方が上手くないので、すっきりしない映画になった。

 みんなに棄てられ、ひとりぼっちになった(自業自得だ!)彼が、それでも一切成長していないというのは、どうか、と思う。定番なら、ここで、ひとりになって吹っ切れて新しいスタートを爽やかに切ることとなるはずなのに。この作品がリアルを獲得するか、否かの境目はこの体験を通して、ラストで彼がどこにたどりつくか、にある。成長云々ではなく、この出来事がどんな影響を与え、彼がどうなるのか、それこそが見たかったのに、その一番大事な部分が描き切れていない。もともとコメディーは難しいのだ。だからこそ、せめて青春映画として、恋愛映画として抑えるところはきちんと押さえてほしかった。


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