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映画・演劇のレビュー

瀧羽麻子『失恋天国』

2015-10-28 21:58:28 | その他

作者名だけで、やったぁ、とか思って借りてきたけど、電車の中で読みながら、このタイトルの小説を読んでいるって、どうよ、と思ったら、なんだか恥ずかしくなった。しかし、そういう気持ちはダメなんです、と大先生(失恋学校の校長)に言われるなぁ、と思い、反省した。失恋は恥ずべきことではない。自分に落ち度がない人に限って自分のせいにするパターンが多いけど、(反対に自分が悪い場合には、相手にせいにする人が多そうだ)そうじゃないとはっきり言う。

結婚式直前になって一方的にキャンセルされて、実は僕には好きな人がいつんだ、とか言われたなら、もう立ち直れないだろう。主人公の雛子がそうだった。8年間(たしか)も付き合い、式場も決まって案内も出した。そんなところまで来ていたのに、である。犯罪だ。でも、相手の男は自分に正直になりたかったから、とかありえない。

そんな彼女のもとに届いたのが、失恋学校の入学案内だ。まぁ、これのほうがあり得ない。こういう冗談みたいな小説を読む気にはならないのだが、瀧羽麻子だから、我慢して読み続けた。設定自体はファンタジーなのだが、それを実にリアルに展開していく。この現実世界で文科省公認でこういう学校が存在し、1年間の全寮制学校で、ちゃんとしたカリキュラムもある。そういう世界の小説なのだ。SFとして分類してもいい。ありえない設定に最初はのけぞるけど、だんだんこの世界の在り方に共感するようになる。こういう学校が現実にもあればいい、なんて。

思えば瀧羽麻子は、いつもこんな感じだ。ことさら今回ばかりが異常なのではない。デビュー作『うさぎパン』だって、そうじゃないか。主人公のふたりがパン好きで、気が合い、いろんなパン屋を巡る話だなんて、これもありえないわけではないけど、普通じゃない。でも、そんなふつうじゃないふたりをとてもリアルに描き、現実世界に風穴を開けた。そういう意味じゃぁ、今回も同じではないか。そう思うと、とても、納得がいく。

同室になった性格のまるで違う3人の女子(年齢も違う。でも、3人とも失恋して傷ついたところは同じ)が、だんだん仲よくなって、1年間を過ごす、入学から卒業までの時間が描かれる。新しい恋、その予感。さまざまな学校行事。1年を通して、彼女たちはちゃんと失恋から卒業できるのか。

最近、この1年間限定のドラマに嵌っている気がする。1昨日の『先輩と彼女』もそうだった。その前の『リトル・フォレスト』2部作もそう。そして、この小説である。いずれも、とてもよくできた作品で、胸に沁みた。人間にとって1年間という月日はとても、いい時間なのだと改めて思う。

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