2時間のミュージカル、というか音楽劇。20曲近くの歌が全編を彩る。お話より歌のシーンのほうが長い。芝居をしながら歌うのではなく合唱団状態。しかも大人数で。たしかにそれはそれで壮観だ。でも、お芝居としては大味。ちゃんとお話を展開させていかないし。一応、メインのお話やサイドストーリーはある。でも、それらが表面的な部分で描かれるばかりなので、2時間のドラマとしてのうねりはそこにはない。いろんなところがおざなりだ。ただ、60人に及ぶキャストがこの劇を支え、みんなが前を向いて全力で歌う姿は見ていて気持ちがいい。
舞台となるのは主人公のつばめ(僕が見た水班は、田村朱麗が演じる)が通う子ども食堂。彼女の兄アキ(森田太鼓)は夜間高校に通いながら町工場で働いている。両親を亡くした兄と妹のお話だ。明るく元気な小学生つばめの姿は、なんだか昔懐かしい『キューポラのある街』のジュン(吉永小百合)を想起させる。これはあの映画のような世界だ。同じ吉永小百合の『いつでも夢を』も思い出させる。さらには最新作『マイスモールランド』も。いずれも貧しいけどけなげな女の子が、やさしい周囲の人たちに支えられ一生懸命生きている姿を描く映画だ。この芝居はそんな作品の系譜を継ぐ。みんなで力を合わせて生きていく。きっと幸せになれる。こんな時代だから、こういう明るく元気になれるお芝居は大事なのだろう。お話の登場人物たち同様、舞台に立つキャストたちもまた、みんなで力を合わせてこの芝居を作っていこうとする。演出を担当した大塚雅史さんがパンフにこの公演を「奇跡的な出来事なのかもしれません」と書く。その通りだな、と思う。ふだんならここまで甘くてノーテンキな芝居には鼻白むところだ。だけど、見ながらなんだかその熱意に圧倒されていた。いいじゃないか、これで、と。
余談だが、終演後のアフタートークも楽しかった。主人公を演じた田村朱麗ちゃんと、彼女が憧れる女優はるかを演じた曽我部夢ちゃんが出てきてインタビューに答える、というものだ。「はい、がんばりました」とか「みんなと力を合わせてがんばりました」とか、そんなことを同じようにふたりの少女が語る。(というか、言わされている、というか)なんだか初々しくてかわいかった。