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映画・演劇のレビュー

クロムモリブデン『七人のふたり』

2015-06-09 22:01:02 | 演劇
このタイトルおかしいやろ、と誰もがすぐに気がつく。こんなにもわかりやすいクロムはもしかしたら初めてではないか。これはきっとクロムの入門書のような芝居に違いない、なんて思いながら、見始めた。でも、僕に言わせれば今さら入門、って、って感じだ。自慢にも何にもならないけど、もう25年くらいクロムの芝居をずっと見ている。思い起こせば、91年頃、今は亡きスペースゼロで『キエテナクナレ』を見たときから、ほぼ全作品を見ていることになる。普通じゃない。(とは、言いながらクロムが大阪から東京に本拠地を移転させてからは、年に1回の大阪公演しか見ていないし、その中の何度かを見逃しているから、ダメだ。熱心なファンとは言えないなぁ、である)

まぁ、そんな昔話なんかどうでもいい。それよりもこのタイトルの謎、だ。7人はふたりではない。もうその地点で矛盾している。でも、そこが今回の作品の基本姿勢だ。7人というのは黄金のメンバーの条件だ。それは黒澤明監督が(ついでに、ジョン・スタージェスも)証明している。7人いれば怖くない。どんな相手とでも戦える、と。

でも、彼らは「ふたり」しかいない。だから、後の5人のメンバーを集めるための芝居になる、はずだ。そんなこと見なくてもわかる。そして、予想通りの展開になる。チラシには「あとは人間以外でも」なんていう説明が入っている。それはいらないはずだ。でも、わかりやすいようにそんな解説を用意した。まさに、入門編である。誰にでも簡単にわかるクロム!

いつものメンバーがあまりそろわないから、物足らないという感想が沢山寄せられたんだよ、と作、演出の青木秀樹さんは言う。確かに、ディープなファンはそういうだろうな、と思う。でも、そんなこと、まるで気にしなくてもいいし、(実は、気に小さい)青木さんは気にしない。(ふりをする)そんな意見も最初から予定調和だ。

オーディションで選ばれた新人たちは器用にクロムの世界を体現しているから、まるで違和感なく、作品と向き合える。新人公演のような不器用さは当然ない。そんなことをするつもりはないからだ。敢えて、この大人数の芝居を半分新人で見せることに挑戦した。そして、思いもしないような効果を生み出す。この作品は新しいクロムの可能性を体現したものとなった。

短いシーンが際限なく続いていく。いつも通りに、いや、それ以上にテンポはいい。だが、そのうち、息切れしてくる。それは核になるストーリーを持たないからだ。いや、敢えて持たさないように作っている。ないわけではない。ストーリーはある。だが、そこに整合性や、ドラマとしてのうねりのようなものを持たさない。説明しなし。もちろん、説明なしの問答無用はいつものことだ。だが、複雑なパズルを組み合わせると、それらがちゃんとどこかにたどり着くようになっているから、クロムは面白い。なのに、今回はそうはならない。収斂せずに拡散していく感じだ。もちろん、青木さんの中ではちゃんとした整合性や帰着点はある。でも、そこにこだわらない作りをしている。その結果、いつも以上にわかりにくい。難しい芝居だ、というのではないけど、このわかりにくさが今回の一番の問題点だろう。

僕は見ながら、だんだん、息切れを感じた。つまらないわけではない。膨大な情報量と、その拡散していく展開についていけなくなった、感じだ。最後にはドロドロになって溶けてしまう。『ちびくろサンボ』のトラがバターになったような感じだ。つかみどころのない芝居なのだ。よくわからない、というのはいつものことだが、それが理詰めで理解していこうとすることを拒絶する。摑んだと思った瞬間にすり抜けるように。ぽんぽこ(森下亮が演じている)に騙されたみたいな芝居なのだ。

動画の再生回数を競ったところで、そんなものに何の意味もないことはわかっている。大衆の心をとらえたなんてものではなく、ただ、物珍しいだけ。すぐに、飽きる。だから、もっと過激なものを提示しなくては、と思い、表現はエスカレートしていくけど、そんなものに何の意味もない。しかし、みんなが見てくれて、人気が出たなら、うれしい。人気ブロガーなんかのブログを読んでも、少しも面白くはない(と、思う。僕は読んだことないから)のと、同じように、再生回数イコール完成度の高さではない。でも、世の中にはそういうことに必死になる人もいるらしい。

とんでもないことの連鎖は、何がとんでもないことで、何がそうじゃないか、それすらわからなくする。物事は慢性化すると、もう驚きではなくなる。高校で、クラブ活動をする。そこで演劇部を作る。たったひとりが、先生と出会ってふたりになる。すると、そこに、人間ではないようなわけのわからないものたちが、やってきて、どんどん本題から横滑りしていく。18人に及ぶ新旧キャストが入り乱れて、新人もレギュラーも、ちゃんとクロムになり、芝居は青木世界を忠実に再現していく。でも、なんだか、これは精巧に作られたクロムのコピーのようにも見える。とても上手いし、各人が自分の役割をきちんと担っていく。だが、インパクトが弱い。さらには、ストーリーに求心力がない。堂々巡りのお話が続く。どこにも、たどりつかないまま、いきなり終わる。そこに残る徒労感。だが、それがなぜか心地よい。これが新しいクロムの方向性なのか? 謎は謎を呼ぶ。次回に期待。


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