習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

evkk『     』

2015-02-25 20:24:40 | 演劇
3つの短編集。このパターンは外輪さんの得意技だ。好きなお話をうまくつないで、一つのテーマや世界を提示する。今回は「闇」を仕掛けに利用する。闇の中で話が展開し、闇が話の中に紛れ込む。だから、タイトルも見えない。僕がタイトルを書き忘れたのではない。(もちろん、外輪さんが忘れたわけでもない。)この作品にはタイトルがないのだ。見えないだけなのかもしれないけど。

いずれもちょっとへんなお話。少しエロチックで、笑える。もちろん、外輪さんだから、そこは品のあるエロ。でもコメディか、と思うくらいに、軽ろやか。そんなお話を静かに闇が包み込む。だが、ここで描かれる3つのエピソードは、決してただ軽いだけのお話ではない。でも、その底を支えるこの暗さは僕たちを恐怖させるのではなく、反対にほっとさせる。しかも重くはない。闇は、ときにやさしい。

目の見えなくなる男とその妻。はちみつを3缶も毎日食べる女と出会った男。(この話は、少し長いから前篇後篇に分かれている)仕事に疲れて帰ってきた夫はお酒を飲み続ける。誰もがストレスをお抱え、でも、日々の生活の中でそれをうまく処理している。

本当の自分がどこにあるのか、なんて、つきつめる必要はない。いずれの自分も本当の自分なのだ。昼間職場で過ごす時間も、休日の時間も、それは家で過ごすこともあれば、旅で過ごすこともある、そして特別な場所に出向くことも。みんな包み込んで、自分。

ここにはストーリーを語ることよりも大切なものがある。それは、誰もが光と闇を同時に抱えているという、当たり前の事実。3つのエピソード(男女ふたりずつ、計4人の男女によって演じられる)が、それをそれぞれの角度から表現すると同時にそれを見守る観客もまた、入り口で与えられた灯りによって、体感する。その小さな灯りを手で覆うと闇になり、それを開くと、小さなともし火となる。芝居を見ながら、灯りは手で覆ってください、とアナウンスされる。でも、さびしくなったら、灯りの覆いを放してもいいよ、と言われた。どこで誰が灯りの覆いを放すかは観客による。こんな小さな仕掛けに秘められた行為をちょっとしたいたずらだと思うくらいに、この作品はおおらかだ。重くて暗い心の闇に蓋をして、小さな芝居を見守る。



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