昨年、大作『梅子の梅根性』をものにした南出謙吾・作、しまよしみち・演出のコンビによる新作である。ふたりは前回の津田梅子に続いて今回は与謝野晶子に挑んだ。
主人公の晶子を演じたのは劇団未来の池田佳菜子。史上最大最悪(?)のドンファン、与謝野鉄幹の蛮行を描く前半から、そんな男に恋した晶子がどこまでも突き進む後半に突入するという怒濤の2時間30分である。
バカな男に入れ込む女。彼女がこんなつまらない男と結婚して12人もの(芝居が描く時間ではまだ6人だが)子どもたちを作り育てることになる。従来の与謝野晶子像を覆すキャラクターを提示し、バイタリティ溢れる彼女の短歌と愛に賭けた情熱を描く。
パリ北駅での再会から始まり、再びラストでそのシーンに戻ってくるまでの壮大なドラマをしまは敢えてさらりとした演出で見せていく。このまるでコメディのようなドラマは感動的なお話としてではなく、緩いタッチで綴られる。まさかこんなふうにこのふたりの物語が綴られていくなんて思いもしなかった。
とことん女にだらしないダメ男。そんな男についていく女たち(劇団未来の女優陣が演じる)が描かれる。晶子だけではないのだ。しかも何故かみんな騙されても彼を嫌いにはならない。彼には打算はない(わけでもないかぁ)。純粋だ。だがいつも見境なく相手を真剣に好きになる。悪気はなく、みんな好きって何? お前はほんとのバカなのか、とすら思う。そんな救いようのない男を川西聡雄が見事に演じた。
さらにはそんな男に添い遂げる女を池田佳菜子は彼以上の怪演で演じきる。無邪気で情熱的。思いのままとことん突き進む。
これはそんなふたりの救いようのないバカップルによる人生を賭けての大冒険だ。女にだらしないだけでなく、お金にもだらしない男。そんな困った男とそれを許してしまう女。
鉄幹、晶子のラブストーリーを期待したら思いもしないしっぺ返しを食らう。そこがなんとも楽しい作品である。史実を蔑ろにするのではなく、ちゃんと史実を踏まえて二人の関係性を新しい視点から描こうとした試みは成功した。