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映画・演劇のレビュー

『レスラー』

2010-04-19 23:04:47 | 映画
 監督は『π』のダーレン・アロノフスキーだ。映像派の彼がこんな正統的の人間ドラマを監督するだなんてそれだけで驚きだ。前半の痛ましいばかりのプロレス・シーンの凄惨さには目を覆う。目をそむけたくなる。だが、あのえぐさがなくてはこれはただの綺麗ごとの映画にしかならない。そこを踏まえてこのいささか紋切り型の映画は、作られる。

 過去の栄光にいつまでもすがりついているわけではない。彼にはこれしかできないのだ。20年経っても今もプロレス選手として、リングに上がる。老体に鞭打つなんて言う定番ではない。悲壮な覚悟でリングに向かう。手を抜くことはない。いつも全力だ。見ていて痛々しい。体はとうに悲鳴を上げている。ミッキーロークが今の自分を投影させながらこのキャラクターを演じているような気にさせられるから、余計に凄まじい気分にさせられる。

 話自体はよくあるパターンを出ない。ストリッパーに恋して、入れあげることや、幼い頃、別れたままの娘に会いに行って、最初は拒絶されるが、和解するとか、でも、最後は自分にはやはりプロレスしかない、とか。こんなにもありきたりの設定を連発させながらも、この映画は通俗に堕さない。痛ましいくらいに彼にはプロレス以外の何物もない。その事実だけがこの映画のすべてだ。あの二枚目俳優だったミッキー・ロークがこんなにもブヨブヨで、崩れてしまったこと。でも、それだからこそこの役を彼が演じる意味がある。ありのままの自分を認めることが、この映画の力となる。

 この映画がすごいのは、試合のシーンの残酷さである。あのリアルさがそれ以外のパターンを圧している。そこにこの映画の意味がある。彼の存在自体がストーリーを超越する。

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