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映画・演劇のレビュー

ミジンコターボ『シニガミと蝋燭』

2012-07-29 07:18:23 | 演劇
 今のミジンコターボの完成形。これが持てる力のすべて、だ。全力投球という表現者としては、あたりまえの行為が、こんなにも清々しい。気負うことなく、全力を注ぐ。2時間の大作を見終えたときの満足感は、スゴイ作品に出会えたことではなく、今まで積み上げてきたものが、どれだけ尊いものだったかを、気づかせる。試行錯誤の彼方で、たどりついた世界。それがここにある。うわさ話の3部作の完結編。HEPから、ABCへと、劇場も大きくなり、それが描く世界ととてもよくマッチしている。劇団がどんどん大きくなり、メジャーな存在になったから、キャパの大きな劇場にする、というのではない。表現すべきものに合わせて劇場を選ぶのだ。中劇場から大劇場へとスケールアップを図るのが目的ではない。もちろん出来る限りたくさんの観客と出会いたいし、観客と一緒に作品を共有するのは芝居を作る人間にとって何よりも大切なことであることは、否定しない。だが、当然それだけが目的ではない。

 勢いのある劇団が、ちゃんと一歩ずつ前進していく姿を追うのは、なんだかうれしい。『ダメダメサーカス』『いたずら王子バートラム』で、やってきたことの集大成である。華やかなダンスと、テンポのいいストーリー。大人数のキャストが入り乱れて、しっちゃかめっちゃかしながら、少年と少女の恋を応援していく。お話の力を借りながら、自分の気持ちを言葉にして伝えることの困難さを、芝居として見せる。

 実は、なんでもない、たわいないお話なのだ。でも、それをこれだけの労力とエネルギーを傾けて形にする。一見回り道でしかないように見せながら、そうではない。たった一言「好きだ」というために、どこまでも回り道を繰り返す。13番目の子どもとして生まれて、シニガミに名を付けられて、彼に見守られて、生きる。誰かから大切に思われることの喜び、それを同じように誰かに伝える。好きな女の子に好きと言うことがそうだ。そのためにたくさんのお話を作り続ける作家の妄想の世界をこれだけのスペクタクルにしてみせていく。傑作である。見逃すべきではない。

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