こんな形でこの作品を見ることになるとは、思いもしなかった。ただのネット配信での上演というのではなく、ここに新しい形での演劇の在り方を提示する。この「仮想劇場ウンングフィールド」という空間は、僕には想像を絶する劇場だった。
5人の役者たちがそれぞれ別々の空間で演技し、それを誰もいないウイングフィールドという劇場に連れてきてその映像を重ね合わせる。しかも、演じる役者たちは影法師となりそこに存在する。モノクロの彼らの姿はリアルとはほど遠い。舞台は役者の生の姿を通して体感するもののはずなのに、ここでは敢えて生身から限りなく遠い姿で提示する。ここに描かれる白と黒の世界は今現実にライブで演じられているにもかかわらず、生身の肉体からこんなにも離れたものとして提示される。
最初は凄い違和感で、これは芝居と呼んでいいものなのか、と、戸惑いながら視聴した。しかも、最初パソコンから音が出なかったので、焦りまくって、冒頭部分は見れていない。仕方ないからすぐにタブレットでの鑑賞に切り替えた。そんなこんなのトラブルから視聴を始め、途中休憩10分をはさんで1時間50分、普段の芝居以上に緊張した。
最初はあれだけ違和感のあった影法師でしかない演者たちの姿が、見ているうちにだんだん心地よくなるから不思議だ。この不条理な世界にこのスタイルが馴染んでくる。「会社」という場所で、何の疑いもなく毎日過ごす男たち(演じるのは女たちだけど)の不条理な姿を描き、それがやがては狂気に至る。バットによる撲殺だけではなく、それまでの数々の出来事のすべてがまるで夢のなかの出来事のようだ。
それはもしかしたらこの仮想劇場というスタイルによって可能となったものなのかもしれない。芝居であるにもかかわらず、生々しさからは遠く離れた世界が繰り広げられる。でも、これは確かにライブだからこそ可能だったものだ。
まるで夢のような体験だった。これは常に実験的なスタイルを模索しているエイチエムピー・シアターカンパニーだからこそ可能だった作品であろう。