レナード・バーンスタインの伝記映画をブラッドリー・クーパー脚本、監督、主演で贈る大作。プロデュースはなんとマーチン・スコセッシとスティーブン・スピルバーグのふたり。最初はふたりとも自ら監督するつもりで準備していたようだ。だがスケジュール的に不可能になり、主演にオファーされたブラッドリー・クーパーが名乗り出た。『アリー スター誕生』で監督デビューした彼の第二作となる。素晴らしい映画である。アカデミー賞作品賞ノミネートは納得の出来。
映画は、まず「芸術は答えではなく、混沌である」という感じのバーンスタインの献辞から始まる。いつも授業の最初に僕も同じようなことを生徒に話している。勉強も読書もそこにあるのは答えではない。「わかる」の先にあるもっと「わからない」を知ることであろう。
これはバーンスタインとその妻であるフェリシアの愛の物語。前半のモノクロで描かれる部分が素晴らしい。25歳から37歳の日々。若かりし日の冒険の数々。流れるように描かれるさまざまなエピソードを時にワンシーンワンカットで描く手腕は見事。そこにあるのは音楽に賭ける情熱とフェリシアへの愛だ。ふたりがそれぞれの夢に向かって共に戦っている姿を見せてくれる。
一転して華やかなカラーになる後半は戸惑いのドラマ。子どもたち、妻、仕事。充実した日々のはずなのに何かが足りない。さらには同性愛者でもある彼の性状が暗い影を落とす。やがて妻が乳癌になる。これまで彼女とふたりで夢を実現してきた。彼女を失うかもしれないという不安に押し潰されそうになる。
最終章。それまでのスタンダードサイズから横に広がりビスタサイズに変わる。老境に達した彼の辿り着いたところがさらりと提示される。だがそれは、ずっと変わらない、ということ。特別なラストにはならないのがいい。彼は今もまだ音楽とともにある。それだけ。敢えてドラマチックを排してテンポよくさまざまな出来事をさらりと見せていく。単調になりがちな作り方をしているのにあっという間に終わる。とても上手い。