これはとてもオーソドックスな芝居だ。「ザ・演劇!」とでも言いたくなるようなクラシック。それに若い女の子たちが挑む。と、いっても金蘭会高校の公演ではなく、創立20周年を迎える金蘭座として挑むわけだから、決して若い女の子集団、というわけではない。しかし、彼女たちが演じると、いくつになっても10代の頃の輝きを失わない。
それは演技メソッドが金蘭会高校と同じ(というか、その伝統を今も現役として受け継ぐ)だから、ということだけではない。彼女たちが、金蘭のOGであるだけではなく、主宰の山本篤先生が、現役の金蘭会高校演劇部の主宰(顧問の先生、という言い方では生ぬるい)も兼ねているのだから、ということだけでもない。だいたいそんなのは、もう当然のことで、この芝居の輝き方は、山本さんの熱い想いにシンクロした彼女たちがそれを演じるからなのだ。永遠の少女たちが永遠の少年である山本先生のもと、演劇に挑むのが金蘭座という希有の集団なのである。
彼女たちは山本さんの思い入れ深い清水邦夫作品に2017年の今、再び取り組んでいく。そこでまず心掛けたことは何か。これをオーソドックス、クラシックに止まることない今の息吹を感じさせる作品にするために仕掛けたのは、永遠のヒーローである阪本龍馬という男の弱さを彼の姉たちの視点から捉え直す、という試みだ。
ここにあるのは、今は不在の龍馬を持ち上げることではなく、(そんな気はもともと清水邦夫にも山本さんにもないけど)貶めるのでもなく、大きく変動していこうとする時代のはざまにあっても、自分の信じるものに邁進したひとりの男を支持し、支え続けるという想いだ。そうすることで、彼は死んでも死なない。生き続けることになる。なぜ、今龍馬なのか、ではなく、誰かを愛し続けることで、生きていける、という答えを提示する。そのとき、この作品は今の時代を生き続ける芝居になる。そんな想いを主人公の乙女を演じた木内香織と中迎由貴子が支える。大きな時代の波に飲み込まれることなく、生きていくために必要なこと。それをこの芝居は教えてくれる。
余談だが、黒木和雄監督の映画のタイトルは確か『竜馬暗殺』である。それをパンフにおいてあえて『龍馬暗殺』と表記する山本先生のこだわり方が僕は好き。そういう思い込みの深さが作品作りにおいて一番大切なのだ。(たぶん)
もう一度書くが、木内香織の凜としたたたずまい、キーマンとなるもう一人の姉千鶴を演じた(実質的にこの劇団を支える)中迎由貴子の軽やかさ。この二人が素晴らしい。そして、彼女たちを中心としたいつものように見事なアンサンブルプレイ。いろんな意味でこの作品は、3月の山本先生による新作『ケイがいた』以上に確かな金蘭座復活を感じさせる力作に仕上がっていたことが嬉しい。