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映画・演劇のレビュー

よしもとばなな『どんぐり姉妹』、辻村深月『ツナグ』

2011-01-19 20:37:22 | その他
 大切な人の死、という問題と向き合った2つの小説を続けて読むことになった。どうしようもない、でも受け入れ難い。そんな事実と向き合い、大切な人がいなくなった後の時間を生きていく。2作とも両親を事故で同時に失った子供の話である。『どんぐり姉妹』の2人も、『ツナグ』の歩美クンも、祖父母との交流によってその後の時間を生き続けることが出来た。どんぐり姉妹の祖父。歩美の祖母。2人は彼らときちんと距離をとってつき合ってくれた。だから、彼らは無理することなく、生きることが出来た。

 『どんぐり姉妹』のどん子とぐり子という恐るべきネーミングのセンスには驚かされる。ありえない名前を付けられた姉妹は両親を恨むことなくこの名前とともに生きる。両親の2人に注ぐ無邪気な愛情をこの子たちは受け入れる。両親の死後、彼女たちが受けた痛みの中から2人が作り上げた自分たちの時の過ごし方。ゆっくりと今という時間の噛みしめるように生きていく日々が描かれていく。人生相談のようなサイトを立ち上げ、そこで、2人で、たくさんの人たちの痛みとちゃんと向き合っていく。

 なんでもない描写がよしもとばななの簡潔な文体によって綴られていき、その無理のない優しさが、心に沁みてくる。今回のよしもとばななは短編に近い長編(というか、中編)なので、息切れせずにラストまでもっていってくれる。彼女の小説にはストーリーがないから、長くなるとちょっとしんどくなるのだが、今回はちょうどいい。

 それに対して辻村深月はストーリーテラーだから、大丈夫。短編連作スタイルの長編として無理なくツナギという特異な仕事の就いた少年の日々が、4つのエピソードと共に描かれていく。ラストで自分自身の話になって、全体が綺麗にまとまるように出来ている。死者と会う4人の男女の痛ましいエピソードのひとつひとつも胸にしみる。独立した短編としても良くできている。こういうタイプの小説はたくさんあるし、ある種のパターンでしかないのだが、とても気持ちよく読めた。

 この2冊に共通するものは、穏やかに自分に与えられた使命を、無理なくこなしていこうとする誠実さだ。それが心地よい。こんなふうに生きられたならいいな、と思う。


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