今、この瞬間に、この小説を読んだ、ということを大切にしよう。この小説が描こうとする危機感は今、僕らが直面している危機感と連鎖していく。3月2日から全国の小中高校が休校になった。この前代未聞の出来事に直面して、しかもこれは何の前触れもなく、いきなりの総理による要請である。学校に対しても一切の打診もなかった。この無謀な要請を受けて、各自治体は急きょ対応し、ほとんどの自治体は受け入れるしかない状況のなか緊急の対応に追われることになる。そんなこんなのさなか、たまたまこの日からこの本を読み始めたのだった。(中略)
総理はカザアナを空けたかったのか。カザアナをあけるためには、今ある状況から一歩踏み出すしかない。不思議な力がなくてもできることはある。今、自分たちに与えられた状況をマイナスとは思わずに、それを受け入れ、それだから可能なことを見いだすべきなのだ。この小説の主人公たちがアメリカ大統領を拉致して、彼を動かそうとしたが、出来なかったとしても、世界を変えていくことはきっと出来る。
近未来の日本を舞台にして850年前にいたカザアナの一族とともに、この時代に風穴を開けるための大冒険を繰り広げるエンタテインメントである。森絵都が『みかづき』に続いて、今度はこんなエンタメに挑戦するなんて思いもしなかったので、意外で最初は少しとっつきにくかったけど、徐々にこれはエンタメなんだと開き直ってラノベ感覚で読み飛ばしていくと、このとても深い小説世界にしっかりと嵌まってしまう。『みかづき』で描いたことにも通じる。ここには子どもたちの力を信じる大人がいる。
中学生の里宇と弟の早久を中心にして,彼らの母親、4人のカザアナたち、さらにはアメリカ大統領まで巻き込んで、この世界の未来を考える壮大なスペクタクルなのだ。それにしてはしょぼいラストのいたずらも含めて,森さんの想いをしっかりと伝える傑作。