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映画・演劇のレビュー

真紅組プロデュース『銀の滴 降る海に』

2012-10-14 09:26:49 | 演劇
 2時間のエンタティンメントとしてとてもよく出来ている。いつもながらの楽しい舞台で、華やかで、真紅組らしい芝居だろう。2つの話を融合して、1本の舞台にまとめるという難事業を脚本の阿部さんはとても楽しそうにこなしている。彼女の力量ならこれくらいの作業はなんでもない。シェークスピアの2本の作品を、自由に脚色して、その劇世界で遊んでいる。大阪を舞台にした『ウインザーの陽気な女房たち』と、蝦夷を舞台にした『ヘンリー4世(1部)』。まるで、違う場所での別々のお話を交互に見せながら、最後にはちゃんとひとつにして、まとめあげる。先にエディンバラで上演し好評を博した中編作品『大坂の陽気な女たち』を叩き台にして、それに『ヘンリー4世』のエピソードを追加したようだが、お話の比重は後者に置かれた。そのへんのバランス感覚もいい。終盤のアイヌたちと内地の武士たちとの戦いをクライマックスに持ってくるという構成も当然の展開かもしれないがよく出来ている。

 目まぐるしく移り変わる場所と、ドラマを、テンポよく見せていき、一瞬も飽きさせない。手慣れた諏訪誠さんの演出も心地よい。20人に及ぶキャストを縦横無尽にさばいて、役者たちも実に活き活きしている。

 ただ、そんなふうにいい所はたくさんあることは認めるが、そこにはそれ以上のものがない。エンタメだから楽しかったならそれだけでいい、というのも、ありだろうが、その先にはちゃんとした感動が欲しい。ここには人間ドラマがまるで書き込まれず、こういう風に表層のドラマだけで、流してしまうのが、今の真紅組の弱点だ。パンフに書かれた「笑顔」という文章には納得するし、諏訪さんの姿勢は素敵だと思う。それだけに、ドラマがその時点で止まってしまうのはなんとも惜しいし、残念なのだ。

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