習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『遠くの空に消えた』

2007-08-06 23:32:56 | 映画
 どこにもない架空の田舎町を舞台にして、その町に父の仕事のためにやってきた少年と町の子供たちのふれあいを描く行定勲監督のファンタジー。彼の心の中にある夢の世界を優しいタッチで映像化した極私的な映画。

 このプライベートフィルムはあまりに独りよがりで、こんなわがままを映画にして許されるものなのか、なんて思うほどだ。だが、どうしてもこれをやりたいんだという彼の願いが、この奇跡の映画を産んだ、と考えると、きちんと内面ともリンクしており、そういう点では納得がいく。

 ただし、これが万人受けするか、というとかなり心許ない。彼の夢の論理を押し付けられても僕たち観客は少し退いてしまう。悪い映画なんかじゃないことはよく分かるのだが、あまりに個人的すぎてこれに乗り切れなかった人たちは置き去りにされる。

 宮沢賢治のイーハトーヴにも通ずるような個人的な内的宇宙のお話で、そこにある理屈なんて僕らにはよく解らない。ドラマとしての整合性にも欠けるし、それを納得させるだけのものも用意されていない。

 子どもの頃の夢の世界に生きる大人たちの滑稽な姿は笑えるし、空港建設反対運動なんていうストーリーの骨格部分も、実はかなりおざなりに描かれ、しかもテーマはそこにはなく、この映画の夢の論理に上手く乗れなかった人は確実に取り残されること必至だ。

 映画としてはかなりまずいつくり方になっている。それでもそんなこと承知でこの映画を作り上げてしまった行定監督は「今回は俺のわがままを許してくれ」と訴えかけているように見える。

 神木隆之介はその魅力を最大限に発揮して、現実にはいない夢の少年を見事に演じる。そんな彼を迎える田舎の少年少女をささの友間と大後寿々花がとても芋っぽく演じており、そのあまりにパターン化された対比には納得させられる。

 ここまであやうい映画を作り、作品としては失敗しているけど、平気で2時間24分も見せきってしまうことには感動させられる。

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