大学を卒業する前にどうしてもやっておきたいことがある。自転車で台湾を1周することだ。チェン・ホァイエン(陳懐恩)監督のこの作品が描く旅は、ささやかな挑戦かもしてないが、主人公である青年(イーストン・ドン)にとってはとても大きな冒険だ。耳が不自由で、上手く人との会話が出来ない彼が、たったひとりで旅をする。
旅の途上でいろんな人と出会う。たった1週間の旅である。でも、これはこれで過酷なこともたくさんある。だが、殊更映画にするほどの特別な題材ではないかもしれない。しかも、内容としてはよくある青春映画で、この旅を通して彼が成長していくというある種の定番の域を出ない。だが、そのささやかさがこの映画の力となる。誰もがやれそうで出来ないこと。それを実現していく力。それがこの映画の魅力だ。
台湾は九州ほどの大きさの島で、当然周囲は海に囲まれている。彼はずっと海岸を走っていく。高雄から時計の反対周りで走る。花蓮から、どんどん北上し、台湾最北端(この1月、彼が走った最北端の海沿いを僕もバスでだが、走った)を経て、祖父母が住む彰化に行く。そこから、どんどん南下して、再び高雄まで。
雨の中、びしょびしょになったり、同じように自転車旅行をする男の子とツーリングしたり、小学校に泊めてもらったり。映画の撮影に遭遇し、不当解雇に抗議するため陳情に行くおばさんたちと一緒になり、弁当をもらったり、欧米人の美人モデルと海を見たり。それなりに盛りだくさんのエピソードがある。
だが、この映画は、特別なことを大仰に描こうとするのではない。ドキュメンタリータッチで淡々と彼の姿を追いかけていくだけだ。ものすごく自然体で気持ちのいい作品だ。事件らしい事件はない。きっとこれくらいのことはあるだろうと思えるくらいのレベルのエピソードにとどめてある。映画だからといってドラマチックな展開が必要だとは、思わない。このさりげなさが貴重なのだ。触れ合う人たちとのエピソードも、袖触れ合うも多生の縁、というレベルを超えない。
家に帰って来て、自分の部屋に戻ってきて、なんだかほんのちょっと寂しい気持ちになる。それは誰もが旅の後で感じる甘酸っぱい気持ちと同じだ。だからこれはどこにでもあるありきたりな物語でしかない。だが、この映画が取り上げるこの平凡な話は素晴らしい。誰もが感じること、でも、映画にはなかなかされなかったこと、それをこの映画はこんなにもさらりと提示する。
ラストでもう一度旅の第1日目のエピソードに戻ってくる。そういえば最初の1日目はなんだかあっけなかったが、それはラストでもう一度描くためだったのか、と気づく。出発の日が描かれる映画全体のラストエピソードは、この映画がここからもう一度始まるみたいだ。
彼の人生の旅は、きっとこんなふうにして始まるのだ。この旅の後、大学を卒業し、就職をし、社会に出て、旅は続く。ハンディキャップを抱え、でも、自信に溢れた瞳で、彼がこの先の時間をしっかり生きていく姿が目に浮かぶようだ。そして、彼ならきっと大丈夫だ。この映画はそんな気分を抱かせる。美しい台湾の風景を背景にして青年の人生のスタートを心地よく見せてくれる。これは日本人が誰も知らない傑作映画だ。ひとりでも多くの観客にこの映画と出逢って欲しい。2007年台湾の№1ヒット作。日本では台湾映画祭でひっそり公開されただけ。この2月日本でもようやくDVDになったばかりだ。
旅の途上でいろんな人と出会う。たった1週間の旅である。でも、これはこれで過酷なこともたくさんある。だが、殊更映画にするほどの特別な題材ではないかもしれない。しかも、内容としてはよくある青春映画で、この旅を通して彼が成長していくというある種の定番の域を出ない。だが、そのささやかさがこの映画の力となる。誰もがやれそうで出来ないこと。それを実現していく力。それがこの映画の魅力だ。
台湾は九州ほどの大きさの島で、当然周囲は海に囲まれている。彼はずっと海岸を走っていく。高雄から時計の反対周りで走る。花蓮から、どんどん北上し、台湾最北端(この1月、彼が走った最北端の海沿いを僕もバスでだが、走った)を経て、祖父母が住む彰化に行く。そこから、どんどん南下して、再び高雄まで。
雨の中、びしょびしょになったり、同じように自転車旅行をする男の子とツーリングしたり、小学校に泊めてもらったり。映画の撮影に遭遇し、不当解雇に抗議するため陳情に行くおばさんたちと一緒になり、弁当をもらったり、欧米人の美人モデルと海を見たり。それなりに盛りだくさんのエピソードがある。
だが、この映画は、特別なことを大仰に描こうとするのではない。ドキュメンタリータッチで淡々と彼の姿を追いかけていくだけだ。ものすごく自然体で気持ちのいい作品だ。事件らしい事件はない。きっとこれくらいのことはあるだろうと思えるくらいのレベルのエピソードにとどめてある。映画だからといってドラマチックな展開が必要だとは、思わない。このさりげなさが貴重なのだ。触れ合う人たちとのエピソードも、袖触れ合うも多生の縁、というレベルを超えない。
家に帰って来て、自分の部屋に戻ってきて、なんだかほんのちょっと寂しい気持ちになる。それは誰もが旅の後で感じる甘酸っぱい気持ちと同じだ。だからこれはどこにでもあるありきたりな物語でしかない。だが、この映画が取り上げるこの平凡な話は素晴らしい。誰もが感じること、でも、映画にはなかなかされなかったこと、それをこの映画はこんなにもさらりと提示する。
ラストでもう一度旅の第1日目のエピソードに戻ってくる。そういえば最初の1日目はなんだかあっけなかったが、それはラストでもう一度描くためだったのか、と気づく。出発の日が描かれる映画全体のラストエピソードは、この映画がここからもう一度始まるみたいだ。
彼の人生の旅は、きっとこんなふうにして始まるのだ。この旅の後、大学を卒業し、就職をし、社会に出て、旅は続く。ハンディキャップを抱え、でも、自信に溢れた瞳で、彼がこの先の時間をしっかり生きていく姿が目に浮かぶようだ。そして、彼ならきっと大丈夫だ。この映画はそんな気分を抱かせる。美しい台湾の風景を背景にして青年の人生のスタートを心地よく見せてくれる。これは日本人が誰も知らない傑作映画だ。ひとりでも多くの観客にこの映画と出逢って欲しい。2007年台湾の№1ヒット作。日本では台湾映画祭でひっそり公開されただけ。この2月日本でもようやくDVDになったばかりだ。