こんなお話が展開するなんて、まさか、である。ミステリだけど、ホラーじゃない。とてもリアルだ。昨日読んだ『踏切の幽霊』はもっとホラーにしてよ、と思ったし、まるで怖くなかったけど、こちらはホラーじゃないのに、ちゃんと怖い。
中古のマンションを購入した独身40前の女性。先に住んでいた家族の子供たちが頻繁に訪れる。それを知った母親が子供たちを連れて帰るためにやってくる。タイトル通りに先の家族と今ここに住んでいるひとり暮らしの女性とのお話だ。先日見た芝居第一主義の『友達』とも少し似ている。家を巡る話。他人が自宅にやってきて、生活を掻き乱す。あれは不条理劇だけど、これはあくまでもリアルのドラマ。
全編を不穏なサスペンスが持続する。階下の親子、タイトルにもある前の家族。優しい隣人たちの優しさが何故か読者である僕を不安にさせる。主人公の彼女がやがてとんでもない災厄に立ち合うことになるのではないか、と。
お話はなかなか進展しない。いつまでたっても災厄は訪れて来ない。いや、密かにそれはある。だが前の家族が彼女を助けてくれる。そこまでしてもらう理由はない。親切すぎて怖い。このじわじわとくる恐怖を最終章まで引っ張っていく。青山七恵がこんなサスペンスを書くなんて驚きだ。
さすがにあのラストのオチは取り敢えずは納得するけど、そこまでの恐怖をさらに凌ぐほどではない。ただ、そこからは確かにひとり暮らしの怖さがちゃんと伝わってきた。
こういう切り口もありなのか、と感心した。ホラーじゃないけど、これはホラー並みに怖い。