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映画・演劇のレビュー

尼崎ロマンポルノ『鋼鉄スベカラク』

2009-03-08 08:41:59 | 演劇
 作・演出を担当した橋本匡のイメージが全開した大作。今までの実在の事件を題材にした作品から、進化して今回はオリジナルで、世界を作ろうとした。奔放なイメージの飛躍が作品世界を広げた。それをサカイヒロトの美術が見事に支える。乱暴な展開はこの際目を瞑ろう。イメージ優先の芝居作りは一部の反感を買う恐れもあるが、そんなことは気にしない。外野の声には耳を傾けるな。自分のひとりよがりでいいのだ。これはかって石井總互が『爆裂都市』を作り上げた時の興奮に似ている。「これは暴動の映画ではない。映画の暴動である。」というコピーを今も覚えている。あのめちゃめちゃな映画の興奮を思い出させる。そんな芝居だ。

 四方囲み舞台というよりも、劇場自体がすべて舞台と化したような空間を作り上げる。客席は完全に舞台空間の中に埋もれてしまっている。自分が座った席からは対面の客席はほとんど見えない。左右の客席もあまり気にならない。視界全体を舞台セットが覆うからだ。ワールドワイドに捉えられた舞台装置には様々な意匠が凝らされている。芝居の舞台となる島全体がそこに出現したように見える。

 サカイさんはこの空間全体を見事に造形する。まぁ、彼にしてみればこれくらいのことはお手の物だろう。中央の窪みは錦鯉の泳ぐ池。その周囲には、鉄を素材にした様々なオブジェ。抽象、具象、空想を交えて様々なもので飾りこまれたこの場所で、主人公たちは蠢いている。

 双子の妹を火災事故で失った姉。両親の失意。恋人を死なせたまま島から逃げ帰った男は、3年後、再びこの島に舞い戻る。事故の原因を究明するためだ。廃墟と化した島には、サバイバルゲームに興じる男女がいる。彼は恋人の姉にメールを送る。2人は別々の場所にいながら、死んだ妹、恋人を通して繋がる。あの日から心を閉ざしたままの両親。錦鯉の伝説を父から聞く。それはこの島を巡る物語だ。平成と共に生まれてきた2人の姉妹。昭和を引きずる「昭子」(姉)と平成を担うはずだった「成美」(死んだ妹)。芝居は『平成の終わり』という時代に向かって驀進する。これは双子の記憶を通して平成の終焉を描こうとするスケールの大きな作品である。

 だが、今ここに書いたのはかなり勝手な想像も含む。作者の橋本さんに怒られるかも知れないくらいに恣意的な書き方をしている。この芝居はドラマのまとまりが悪く、描こうとするものがストレートに伝わりきらないのだ。個々のイメージは面白いのだが、それが大きな流れに繋がっていかないから、見ていてイライラする。作品全体を構成していく力が足りない。事件の謎の究明もおざなりだし、芝居自体がどこに着地したのかもわからない。

 生まれてくることなく死んでいったはずの鉄男が、子宮を破って産声をあげるラストシーンに作者は何を託したのか。蜘蛛の巣のように張り巡らされた布の中央にあれだけ強烈なイメージの提示が出来ただけに残念でならない。

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