近未来の東京。高校生たちの日常の日々のスケッチを淡々と描く青春映画。これは一応SF映画ということになるのか。だけどここには未来っぽい描写は皆無だ。だからといってよくある青春映画のキラキラも皆無。もちろん高校生たちによる学園ドラマだけど漫画が原作だったり荒唐無稽なお話でもない。スターが出るアイドル映画でもない。無名の若い子たちが演じる。監督はこれが劇場用長編劇映画デビューとなる空音央。サンダンスインステチュート出身の期待の新人らしい。(坂本龍一のご子息だとこれを書いた後で知る)
なかよし5人組を中心にした群像劇である。彼らは高校3年生。もうすぐ卒業する。ある日深夜の学校に忍び込んでイタズラをする。そこから始まる小さな戦いが描かれる。『台風クラブ』や、あるいは『僕らの七日間戦争』を思い出す感触である。もちろんその2本はまるでタッチは違うし、そんな2本のある側面を継承しながらもこれは今まで見たことのない映画体験を提示する。学校には多様な人種が教室にはいる。そんな日常の中で何故か今も在日コリアンだけが不当に差別されている。警察は富裕層と権力の手先で、子どもたちにも不当な弾圧をかけてくる。そんな時代。
不穏な空気が漂うけど、大きな出来事は起きないまま終わる。結果的には平和な卒業前の感傷を描くだけである。ひとりは退学して、ひとりはアメリカに行く。残された3人は一応ちゃんと卒業する。校長室に座り込みをしたメンバーも。
100年に一度の大地震はまだ起きない。総理大臣は無能。大規模なデモも体制を変えない。デモには先生たちも参加して、いやそれどころか先生たちが生徒たちを先導している。さらには終わった後で一緒に宴会をして飲み会。そんな描写と並行して、学校では生徒たちを監視するAIシステムが導入されるが、基本的にそれを受け入れて高校生活という日常は続く。世界は変わらない。変えたいともがいても変わらない。
ここに描かれるのは「近い将来」の表面的には変わらない日常。彼らがこの先どうなるのか。ただ流されるように生きるのか。わからない。映画はいつものように歩道橋でふたりは別れるシーンで終わる。重い沈鬱な気分を残して映画も終わる。