習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

劇団ショウダウン『パイドパイパー』

2015-08-03 21:36:32 | 演劇
これは、彼女ひとりででも、できる。林遊眠一人芝居としても充分上演可能な作品なのだ。要するに、これは他所行きの作品ではなく、いつもと同じなのだ。だから、うれしい。

2時間以上に及ぶ長編を彼女は、たったひとりで何役もこなしながら壮大なスケールのスペクタクルとして見せる。それが今のショウダウンの定石だ。

ただ今回の作品は、サザンシアターからHEPホールに舞台を移して、大きな舞台にちゃんとしたセットを組んで、20数人の大人数のキャストを駆使して演じられる本格的な超大作だ。彼らにとっては、こういうパターンでの久々の(といっても、僕はそういうショウダウンを見たことがない。彼女の一人芝居になってからの観客だからだ。だから、これが初体験!)大作(まぁ、いつもの一人芝居も「大作」仕立て、ではあるのだが)である。勝負作だ。それだけに、いったいどんな作品になるのか、とても楽しみであり、不安でもあった。

しかし、始まってしばらくしたら、もう安心した。変わらないのだ。それは先にも述べた通りだ。ナレーションでの説明で話に勢いをつけていくというパターンも同じだ。だが、いつもならそれを林遊眠がすべてするのに、今回はみんなが助けてくれる。(なんと、ナレーション部分も、である! 語り部は彼女ではないのだ)

しかも、他のキャストは彼女のサポートにまわるのではない。全員が一丸となるのだ。「1人」で演じるべきところを21人で演じることで、普通(!)のスペクタクルとなる。そして、注目すべき点は今回集められた役者たちがみんなとても上手いことだ。こういう寄り合い所帯になると、芝居がバラバラになり、さらには個人の力量にもばらつきが生じ、上手い下手が出来る場合が多い。なのに、そうはならない。これはとても困難なアンサンブルなのに、見事に統制がとれている。これだけの人数を集めて、である。だいたいこの人数になると、交通整理だけでも、たいへんなことだ。それなのに、一糸乱れず最後まで計算されている。もうこれは演出家ナツメクニオの凄さ、としかいいようがない。

繰り返すがこの2時間20分以上の長さになった超大作は、渾身の力作である以上に平常心の作品である。いつもと変わらぬ作品なのだ。だが、これはこの集団にとって、一度はやるべき芝居だった。ナツメさんならこれが出来るということを証明しなければならなかったからだ。しかし、一度すれば充分だ。

そして、その舞台が(もちろん、この『パイドパイパー』だ!)伝説になればよい。見逃した人はずっと後悔することだろう。そうなるはずだ。(それが伝説だからだ)幻になった舞台はもう再演されない。見ることはかなわない。ショウダウンはこういう大劇場仕様の芝居なんて充分作れる。見せているものは、もともとそういうエンタメ志向の作品なのだ。だが、敢えて小さな劇場でそれを演じることで、作品は普通のエンタメ作品とは一線を画する。そこが彼らの魅力だ。林遊眠の肉体と精神を限界にまで追い詰めることで挑むことが可能な世界。そこで、作品は輝く。だから敢えて大劇場仕様にはしない。しないことで、こういう「作品以上のもの」をそこに見せる。船場サザンシアターに拘るのはそういうことなのだ。1000人規模の劇場でも可能な作品を30人規模の劇場で上演する。そういう贅沢が、彼らの作品を最高のものとする。

だから、今回は特別なのだ。イレギュラーと思うといい。さぁ、ようやく、ここまできて、この作品自体のことも語ろう。

いつも以上に壮大なスケールのお話になっている。全編がクライマックスだ。いきなりクライマックスシーンからスタートするし。主人公の3人は絶体絶命にある。もう不可能だ。姫を守る二人の戦士のうちのひとりが離脱する。姫を守るのは、もう笛吹き(もちろん、林遊眠だ!)しかいない。さぁ、どうなる。そこから話は遡る。(よくある、パターンだ。でも、王道を行くドラマはそういうパターンを外さない)

「ハーメルンの笛吹き」を端に発して、そこから展開させる壮大な物語は、13世紀のヨーロッパから始まり、現代に至る。世界を終わらせる少女、ミリアム(真壁愛)。彼女を守る使命を受けて、何度でもよみがえる彼女を、永遠の命を持つ笛吹き、パイドパイパー(林遊眠)が守り切る。世界中がミリアムを手に入れようとする。彼女を奪うことで世界を手にすることができるからだ。誕生から12歳までを繰り返す彼女を、あらゆる敵から何度でも守り、やがて、その先へと誘う。永遠に繰り返される戦争の連鎖を断ち切るため。

ストーリーよりも、その派手なアクションと、切ないドラマの融合に注目して欲しい。これがショウダウンだ。渾身の力作である。何人もの笛吹きが登場する。みんな強い。だが、一番強いのは林遊眠だ。彼女には使命があるからだ。

彼女と共に闘うヒース(飯嶋松之助)のドラマも描きながら、2時間半のドラマはそれだけではない様々なドラマを孕みながら、どんどん加速する。全編クライマックスの連続、戦いに次ぐ戦い。その中で、空しい繰り返しを通して、人間の愚かさを描く。アメリカが原爆を手にして、極東の小国に落とすなんていうエピソードもちゃんと挟んでラストまで息つく間もない。

だが、見ながら、少しむなしい。それはこの芝居を林遊眠ひとりが演じたなら、という妄想は頭をよぎるからだ。そんなバージョンもぜひ、見てみたい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« あさのあつこ『さいとう市立... | トップ | 『サイの季節』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。